※幸せにならないですごめんなさい
※全国の河内さん遥子さんごめんなさい


「静ちゃん、君彼女できたんだって?」
放課後、久しぶりに追いかけられて逃げ場をじわじわとなくされる。どうにかして隙を作りここから逃げようとして、そんな質問をしてしまった。
その時の彼の顔を、私は絶対に忘れない。いつもとは比べ物にならないような鋭い目つきで睨まれて、全身からにじみ出るオーラで殺されそうだと感じる。
「あいつに手を出したら殺す」
そう視線で告げられたような気がして、私は全力でその場から逃げ出した。

河内遥子、来神高校一年A組出席番号6番、得意科目は現代国語で苦手科目は英語。
そんなどこにでもいるような普通で平凡な子。その子が静ちゃんの彼女だという噂を聞いた時、私は胸に変なひっかかりを感じた。
何だ、つまんないなって。あの怪力馬鹿のことだから、もっとデンジャラスな子を選ぶと思ってたのにって。
そう新羅に言うと「臨美みたいな?」なんて言われて、馬鹿そんな訳がない、多分。
新羅に変なことを言われたせいで私は未だもやもやとしつつある。
それでなくても新羅の前で私は理由もわからず泣いてしまったというのに、最悪だ。
あの時何故泣いたのかと言われれば、ただ単に気に入りの玩具をとられたからだと言えるのに。このもやもやの言いわけはなかなか見つからない。
新羅は私が静ちゃんを好きだ、という風にほのめかした。本人は俺が気づかない様に言ったのだろうけど、生憎俺はそこまで落ちぶれてはいないのだ。
馬鹿だねえ、と笑い飛ばしたその仮説を、俺は絶対に認めない、認められない。
もう戻れないところまで来ているのだから。
認めたら、何かに気がついてしまったら全てが終わってしまうような気がした。

部活の声を聞きながら昇降口を過ぎて校門を出る。そのまま家の方向へ何も考えぬままぼんやりと歩き続けて、住宅地へと入った。
前に興味本位で調べてみると河内さんはどうやら静ちゃんに本気で惚れているらしく、静ちゃんも河内さんが好きらしい。二人の接点がどこなのかまではわからなかったが、とりあえず静ちゃんが騙されている、という仮定はなくなった。
最近はあまり追いかけられなくなったし。つまりそれは、
私が河内さんより下の格である、ということなんだけど。
「ばっかみたい」
馬鹿馬鹿、ばーか。
ちくりと可笑しな風に痛んだ胸に小さく罵声を浴びせる。やめてよそれじゃまるで私が、
「…あれ」
ふと前方を見てみると、電柱の陰に隠れてよく見えないが人影がある。長身の金髪と、小柄な黒髪の姿。静ちゃんと河内さんだとすぐにわかった。
途端に動悸が激しくなって本能が見るなと叫びだす。それでも私の好奇心は貪欲で残酷で、目をそらすことを許してくれない。あちらからこちらが見えないよう、曲がり角からこっそりと覗いた。何かを期待、して。
静ちゃんが戸惑ったようにゆっくりと河内さんの肩に手をかけて、そのまま屈む。河内さんはぐん、とかかとをあげて小さく背伸びをして静ちゃんとの身長差を埋めて、二人の顔が殆ど同じ高さになる。そのまま、静ちゃんは前に顔を、  近づけて
  あ
      駄目だ


後ろ手でばんと乱暴に扉を閉じ、そのままフローリングの床にへたり込む。全力で疾走してきたせいか動悸が激しく体が震えた。
キスシーンなんて何度も見てきた。それどころか自分でだってしたしディープキスだって見たり実行したりだった。
それなのに。
何で今私は、こんなに動揺して。何で、何で
新羅に言われた言葉がよみがえる。ぷつん、と何かがキレた。
「…は、っははっ…」
嗤ってしまうほどに簡単なことなのだ。
私は、静ちゃんが好きだった。
だから、こんなに動揺して。
今まで心のどこかで見ない様にしていた河内さんと静ちゃんの関係を、私は今現実なのいだと着きつけられた。
それを認めてしまえば今まで無理やり抑え込んできたものが全部雪崩れ落ちてぐしゃぐしゃになって潰される。ああ私はこうなることを恐れていたのだと気がつかされた。

もし、

静ちゃんと河内さんが付き合わなかったら、出会わなかったら。
私と静ちゃんは、今のままの関係が続いていたのだろうか。

そうでなくても、静ちゃんが好きになってくれたのが私だったら。
この殺し合いしかできない関係から少し踏み出せたのだろうか。

その前に、私が静ちゃんを好きにならなかったら、出会わなかったら。
この関係は 
  どう変わった?

今更そんなことを考えても、何もかもが遅いのだけれど。


100504
ごめんなさい、暗くてごめんなさい…!
どうやってもハッピーエンドが浮かばなくて…←
多分この話は連作という形で短編を書くと思います…。すみません。
こんなものになってしまいましたが、素敵リクエストありがとうございました!

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