笑って荊を踏む様に@【孔花】

※孟徳の鳥籠エンド後しばらくしてから、という設定です
なおかつ、花さん処女ではないというところまでオーケーでしたらお進みください。







色とりどりの花に埋め尽くされた床。
白く冷たい壁と天井。唯一出られる扉は施錠されて、今でもギィギィと鉄の錠が扉に引っかかり不快な音をたてている。
他にこの部屋にあるものは、扉とは反対側に開けられた細く冷たい、鉄格子の小さな窓。
そこから差し込む僅かな光と、窓から聞こえる小鳥のさえずる声だけが彼女の世界になった。

(……あれから、孟徳さんも来ない)

私は、何を間違えてしまったのだろう。
ついこの間までは、ちゃんと解っていたはずなのに、もう思考回路がぐちゃぐちゃで、何も考えられない。
ひとつだけ確かなのは、本のないこの世界の、この小さな鳥籠が自分の全てになってしまった現実だけ。

「…っ……。助けて…っ…」

窓を背に、床に座り込んだまま体を抱きしめる。
細く、骨ばった花の体は筋力も衰え、立ち上がろうとすると立ちくらみがして起き上がれない。
美しく毎朝髪を梳かれ、違う衣装を着させられて人形のような生活に、食事が喉を通らなくなった。
水分をとれば下の世話のために女官がつくため、とても飲む気にもなれない。
細くなった指先で、顔を覆って、花はただ涙を流すことしか自由がなかった。
(助けに来てくれる人なんて、いない…玄徳さん達だって、こんな、敵陣の真ん中に、私1人助けるために来てくれるはずなんて、ない)
それに、私はみんなを裏切った。
心で、一度は孟徳さんを選んでしまった。ここにしか、居場所はなくなってしまったのだ。
閉じ込められた夜に、その体も求められた夜の事は忘れられない。
怖くて、痛くて。泣き叫んでも、その行為が朝まで終わることなんて、なくて。
(…消えちゃいたい)
ひゅう、と喉がか細く息を吐き出すのと同時に、またあの苦しさが花の体に蘇る。
心ではなく、体を無理矢理蹂躙させられ、快楽に溺れさせられるようなあの感覚。
それがただただ恐ろしくて、組み敷かれた四肢の中で唯一許される瞳からこぼした涙だけで抵抗していた。
(…っ…はぁ、息が…)
指先が冷たく痺れ、床の冷たさの中に消えてしまいそうになるのを、胸の前で指を組んで堪えた。
壁際に寄せた背中に、壁の硬さを感じてずるずると座り込む。
過呼吸に襲われた花は、苦しくても遠のいてくれない意識の中で、窓を肩越しに見上げた。

ーーー月が、とても綺麗だった。

「……帰りたい…」

そう、息を吐き出すように消え入る声で吐き出した。
ーーーどこへ、とはもう考えられなかった。


『……娘。おまえの名は?』

シンとした空気を裂くように、声が聞こえた。
現実なのか、そうでないのか解らなくなって、花は空気を求めて必死に声をあげた。

「…っ…ま、だ……な。花、で…」

掠れた声で、そう答えた。きちんとした言葉になってもいないその答えに応えるように、月の光が揺らめく。
ここにいるはずのないその人の声に、どくどくと心臓が震えている。
壁越しに、手をあてる。
その手を、声が聞こえてくる場所を頼りに月の光を頼りにして壁をはわせた。
見えないのに、あたたかい。
この壁越しに、同じように壁にそう手の温もりを感じているうちに、意識ははっきりと、より鮮明に声を聞き取った。

『…花、君はこんな所で何を迷ってるの』

その人物は、静かに場を伺うように闇に紛れてこの檻の外を歩いているようだった。
窓から、時計回りに左側の壁から聴こえてきた声は、ゆっくりと移動している。
側には兵士がいるはずなのに、その人は壁をゆっくり歩いて扉側にまわる。

「…だ、って。私には、もう帰れる場所なんて…ないのに」

信じられない。呼吸を整えながら、自分は死ぬ間際に夢を見ているのかと思った。
望む夢を、見ているだけなのではないかと。
壁伝いに手を這わしてついていきながら、行き当たった扉に両手で触れる。

『君を帰してあげられる道は、たしかに僕は知らないね。…でも、君はもう忘れてしまったのかな』

扉の前にまわったその人物は、がちゃん、と錠を開ける。
いつぶりに感じたかわからない、外の風。
扉の前で眠っている兵士と、顔を布で覆った人物が、そこに立っていた。




「言っただろ?…君が何を、誰を選ぼうと僕は…いつだって、その誰よりも君の味方だ」





続く



続くって書いちゃった…と思いながら書きました。
この後の展開をまるきり考えてないんですが、鳥籠エンドになっても絶対師匠黙ってないよねとか思って…!
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