永遠恋歌/花孔/うちの花さん

※孔明エンド、三年後の作者の完全な妄想です。








朝議が終わって回廊を歩く人の列。
花がこの世界に残る事を選択して、三年。
太平の世は揺るがず、今日も議題は市政の取り決めだったり、平和的な会談に終わった。


「さて、じゃあ仕事に戻ろうか、花」


孔明が振り返ってみると、ふいに立ち止まった花は、横を歩いていた師の方をマジマジと見つめてこう呟いた。


「…師匠、なんか小さくなりましたか…?」


「ねえ、花。寝坊した君をわざわざ優し〜いこのお師匠様自ら起こしに来てあげたのに、喧嘩を売ろうとしてるの?」


それなら優しく負かせてあげるよ?
いや、ほんとほんと。痛いことなんて何もしないし。
まだそういうことって、致してないのも事実だし?
何だったら時が熟すまで2年くらい、改ざんでもしようか。
ニコニコと笑顔を浮かべる孔明に気づかないのか、花は思いついた様にパッと笑顔をみせる。


「あ、そうか!私の背が伸びたんだ!前に測ったのは三年前だし、こちらの衣装だと丈も短くならないからわからなかったけど…」

と、こちらの世界の衣装に身を包んだ花は嬉しそうに胸の前で手を組んだ。

「うちのお母さんも背が高かったから、きっと今成長期なんですね。ふふ、これなら、もしかして師匠の背をそのうち追い越しちゃうかもーー」

しれませんね、と続けようとした口に、孔明の指が押し当てられる。
わかる、これは待ての合図だ。
でも、最近常々、師との距離が近づいた感じがしたのだ。何より、恋人との距離が近づいたというのは、花にとって嬉しい事でしかない。
だから、つまり、語りたいのだ。
共有したいのだ、距離が近づいて嬉しいね、師匠!ーーと。

「ーー言っとくけど、僕だってまだ成長してるからね、花?」

へらっとした笑顔で、孔明は続ける。

「君が背が伸びたっていうなら、僕だってまだまだ若いし成長してるからね」

そりゃ、花の面積が大きくなるなんて嬉しいしかないけど。と心の中で言いつつ、柔らかな花の唇に押し当てた指を離すと、ぽかんとした顔で花がまた首をかしげる。

「え、でも、師匠ってもう…」

そこそこ成長もとまるお年では。
と言うつもりだったが、ゴゴゴゴゴ…と背景に見える黒い靄に、花が口を閉ざす。

「自分の師匠の歳が、なんだって?」

「ひっ…いえ、なんでもないです…」

ひどいなー、可愛い弟子に年寄り扱いされて、と言うと、お互いにニッコリと笑う。
この師にして弟子である。

「でも、たしかに…君、変わったよね」

「…何も変わってないと思います、けど」

背は、伸びた感覚はある。
ちゃんと計ってはいないけど、最近は胸当てもなんとなく苦しい様な、…そこは変わってないような。
寄せて上げる画期的な下着、こっちにはないもんな…。
どうせなら、こっちが大きくなってほしい。

しょぼん。と顔を曇らせると、笑いを堪えるように孔明がこちらを見ている。

心の中が読まれているのではないか、と羞恥に頬を染めるが、やがて孔明の目は細めるようにして花を見つめた。



「花開く、っていうのかなぁ…」



時々、またあの光に連れていかれそうなほど、目がくらむように眩しい時があるよ。
と小さく続けたが、意味がわからなかったのか、不思議そうに孔明を見つめる。




「…あと2年なんて、待ってられないかな…」



聞こえないように囁くと、人のいなくなった回廊で、花の手を取る。
左手の甲に吸い寄せられるように、唇を近づけて息を吹きかけてみる。
それだけでぴくりと肩を震わせる恋人の手の甲に、ちゅ、と唇を寄せると甘い匂いした。

いつまでも咲かせたくないような、けれど、花が開くのが待ち遠しいような、そんな感覚。

もちろん、花は開ききってから朽ちた後まで、楽しむタイプだ。
この可愛い花に限り、だが。






「…孔明、さん…?」

急に雰囲気を変えてきたのを感じ取ったのか、人通りがこないことを案じてか、花が窺うように恋人の名前を呼ぶ。
その腰に右手を添えて引き寄せると、耳飾りが音を立てて揺れた。

花の左手に唇を寄せたまま、体が密着するかしないかの距離をつめる。


「…確かに、目線が前より近くなったね」


いいかも。と思いつつ。
左手に寄せていた唇をあげ、吐息がかかるかかからないかの距離で囁くと、ぶわっと硬直した花が何も言えずに頬を真っ赤に染めた。
その様子に満足げに手を離そうとした孔明だったが、やんわりと腰に添えていた右手に、花の手が触れる。

まるで、まだ離さないでほしい、と言っているように。


「…っ…花…?」


伸びた髪が、さらさらと風に揺れて、孔明の左手に触れる。
添えられた手を動かせずにいたら、ゆっくりと伏せがちだった瞳が、孔明を見つめ返した。


「…言っとくけど、君、この場面で僕を見つめ返してくる事って、このまま誰かに咎められるまで先に続けられたって文句言えないからね…!」


そこんとこ、わかってる!?
なんで見つめ返してくるの、この子!
三年前までは見つめると視線を逸らしていたからこそ、理性がちゃーんと動いて、また何でもなかったように会話を繋げていたのに。

ーーー本当にこの先までこんな所で進めたら、今夜中には女官達の噂から玄徳はおろか、町中に拡がってしまうかもしれない。それはダメだ。
そんな事になったら明日には彼女が羞恥に震えて自分と距離をおく!とか言い出しそうだし、何だったらしばらく触れることさえしてくれなくなるかもしれない!




と、ここまで0秒で考え至った孔明の硬直した左手を、
その先を期待するように花の手が自分の唇に引き寄せた。




「…ダメですよね、こんな所で…でも、こんな所だから…」



ちゅ、と孔明の左手に、花が唇を寄せた。
目線が近しいからか、睫毛の影すら視認できるほどの距離。



「いけないこと、したくなっちゃうんでしょうか…」




もう一度、今度は孔明の左手の掌に、柔らかな唇を寄せた。



「……っ…!」



思わず、瞬きすらできないほど見開いた表情で固まる孔明に気づいているのかいないのか、パッといつもの笑顔になった花が急に身を離した。

余韻を感じる間もなく離された距離になって、はじめて心臓がやっと動き出したような感覚にすらなる。

表情にはいつもの顔をとりもどした孔明だったが、いまだ血流の良くなりすぎた耳が、そこだけはどうしのうもできないよ!と言うように真っ赤に染まっている。




「師匠、それじゃあ、今日もお仕事頑張りましょうね!」



ニコーッと笑顔で花が手を振って、いつのまにか花を迎えにきていた女官と共に離れていく。

ーーーどうしよう、女官の存在にも全く気づかなかった。
というか、本当に時が完全に止まったと思った。





彼女のいなくなった後で、ものすごい勢いで頬まで赤くなる自分に驚く。



「…やばい、僕の恋人がかっこよすぎる…」




よろよろ、と傾きかける体をなんとか立ち上がらせ、羽扇で顔を覆って歩き出す。


ーーーどうか、この真っ赤な顔を、彼女以外に見られないように、と祈りながら。







大丈夫、師匠もまたきっと成長するよ、、、!
と応援したくなる話にしてみました。
そして、私の中でED後の花ちゃん→結婚後の花ちゃんまでの間は、きっと師匠は弟子の急な成長と、ずっとそばに居られる気持ちから実はメロメロすぎて、カッコいい花ちゃんがでるんじゃあないか?と想像しております。

カッコいい花ちゃんも、すき。

ちなみに、設定では花ちゃんは20歳になって孔明の直属の部下から離れ、別の部署で師匠と似たような仕事をしつつ、部下の女官を数人かかえているようになってます。
なので、毎日ずっと一緒ではないけど、会うたびに孔明さんが翻弄される的な。
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