理性と本能A【孔花】

※師匠のキャラが、遅咲きの春に混乱しております。
カッコいい師匠じゃなきゃやだよって方はブラウザバックを推奨します。




















「ーーちょっと待って。君、本当は何もかもが気付いてるんじゃないの?気付いてるよね?解ってて手練手管で僕をどうにかしようとしてるんじゃないのっ!?」








理性と本能A






「あの、師匠。少しお話ししても、良いですか?」

少し休憩しようか、と声をかけた孔明のそばに駆け寄り、愛らしい少女が愛らしい顔をしてニコニコと花開かせた。

(うわ、まぶしい…)

愛らしくて可愛らしくていい匂いのする愛してやまない人が、雲雀のような声で自分を呼ぶ事に、軽く目眩をおこしそうになった。

「なに?花」

もちろん、そんな想いは表に出すはずもない。
真顔で腕をつき、花の運んできた白湯を口に含んだ孔明に、花が後ろ手に小さな木札を差し出した。

「…『何でもします券』」

「何でも、しますよ!肩たたきでも、お掃除でも、雑用でも…師匠がしたい事、一個だけ何でも私にできる事をするっていう、券です」

何そのスペシャルガチャ券みたいなやつ。
もちろん孔明の中にそんな横文字はないが、花の意図が掴めず。

これはとんでもない券だという事だけはわかる。
口に含んだ白湯をゴクリと飲み込むと、途端に口がからからに乾いてきた。

「…何か、こんな特別な券を貰える理由って、あった?」

極めて冷静な(つもり)声で、その神秘なガチャ券を見やる。
手書きで、たどたどしいこちらの言葉で書かれたそれは、輝いているような気さえしてくる。

「えーと、…その、師匠のお誕生日だったっていうのを、最近知って…」

(誕生日…?ああ、そういえばそんなのあったな…)

あの、毎年いつのまにか過ぎているやつか。
なるほど。それならばこの木札の現実感と冒頭の花のご褒美シーンが理由がつく。

「誰に聞いたの?」

「士元さんです。先日、こちらにいらした時にたまたま…」

「ああ、…あいつ、また来てたの」

あいつ、最近僕がいてもいなくても、来てないか?
忙しくて、ここ自室にも帰っていないくらいこの場所にいるというのに、あいつと来たら僕がいない時を見計らってここに通っている気がする。

「なるほど。つまり、君からの初めての贈り物をくれたんだね?」

「何にしようか色々考えたんですけど…」

と、ここで言葉を止めた花が、僕の手のひらにある木札をそっと手を添えた。
やわこい。指がすごく、やわらかい。
「何でも、しますから。…何がいいですか?」と、フリーズしている師匠に気づいていない様子で花がふんわりと問いかける。
ーー何でも、シマスカラ?
ーー言質取って、2人きりで、何でもします券?
ーーこれはちょっと、このまま指を絡めたりしちゃっても、不自然じゃないんじゃないか?
ーーいや、何だったら手をそのまま引き寄せて、頬にさりげなく口づけしても、いいような気がしてきた。

「…今、無自覚?」

ぷるぷると震えそうになる手をなんとか抑えながら、固まった笑顔で孔明が小首を傾げる。
何を言ってくれるのだろう、と期待する弟子の曇りのない笑顔。

ーーいやいや、待て。
ーーこれは、あれだ。
ーー花は純粋に師匠を祝おうという気持ちだけで、肩たたきとか健全な言葉以外で返したら、師匠のエッチ!とかいって逃げていくんではないか?
ーー落ち着け、鉄の理性!


「そっか、無自覚、なんだね」

ふぅ、と聞こえないように息を吐いた。
やはりウブな花の事だ。何とも思わずこんな券を作って、このまま僕が喜んで肩たたきなどに使えば、明日あたりに『○○さん、これ、心ばかりなんですが、何でもします券です!』とか言って、曹孟徳や玄徳達に配ろうと思うだろう。

「…あのね、花。これは絶対に約束してほしい事なんだけど。まずーー」

ペラペラと弟子の危ない贈り物に対して、大人気ない師匠が、一つ一つ丁寧に注意の言葉を並べた。
まず第一に、何でもします券という恐ろしい武器は、今ここで使うとこの後の(孔明の)業務に支障がでるので、今後はくれる前に教えてほしい事(また欲しいという一言は忘れない)。

「そして、この券は僕専用にしてーーーって、花、なんて顔してるの」

一気に話していたせいで、花の顔を見ていなかった。
いつのまにか彼女の頬は、真っ赤になっていて、添えられてあった指先まで熱くて。
血色のいい唇が、さらに赤く染まっている。

「し、師匠…木札…をね?」

こう、裏返してみてください。
と天使が言うものだから、くるりとひっくり返した木札に書かれていた文字に、思わず本当に、軍師孔明がフリーズした。

『孔明さん専用』、と書かれている裏面に、思わず孔明の目は大きく見開かれ、凝視してしまう。
じわっとそれの持つ効力を考えていたら、2人して赤面してしまった。

「……孔明さん、専用です…。だから」

木札を持った孔明の手を、そのまま覆うように手のひらで包み込み、少し赤みの引いた頬の彼女。
ゆっくりと近づいてくる彼女の行動と、木札の意味を考えてーーー

「ちょ、…ちょっと」

その彼女の行動とガチャ券に、孔明は思わず絶句して触角をゆらゆらと揺らす。

「ーーちょっと待って。君、本当は何もかもが気付いてるんじゃないの?気付いてるよね?解ってて手練手管で僕をどうにかしようとしてるんじゃないのっ!?」

「気持ち。ですか?…もしかして、一緒かなって、思ってます、けど」


違ったら、ごめんなさい…。
と、花が添えた手はそのままに。
机の前から横に移動した花は、少し背伸びをするようにして。
はじめは頬、一瞬顔を赤らめ、悩むように額。
花の手は時の止まった孔明の額から、やがて両耳を塞ぐように伸ばされた。
そして、額にその顔を寄せ、触れるか触れないかーーーと、ここで顔を一気に赤らめ、目を細めた彼女は。
そのまま背伸びをして、椅子に座った孔明のつむじに、口付けた。


(ーーーつむじに、火をつけられたみたいに、熱い)


何が起こったのか、またフリーズしている孔明は、あまりにも想定を超えた展開に、ニヤニヤでも赤面でもなく、ーーースンッとした、いつもの鉄の真顔だった。

師匠の真顔に、ハッと飛び退いた花は、木札を孔明の胸元に押し付ける。

「……あ、ごめんなさい、師匠。…これじゃあ『師匠にしたい事、何でもします券』に、なっちゃいますよね…今のは私がしたかった事だし」

えへへ、と照れた様子の花は、孔明の様子に気づいているのか、いないのか。
師匠譲りのノーマルスマイルで、ぺこりと頭を下げて、執務室の外にと扉を手に取る。

「あの、もう一回お白湯をもらってきますから。戻ってくるまでに、今度こそ、何でもします券でしてほしいこと、考えておいてくださいね、師匠」

そういって遠ざかる花の足音。
白湯が冷めやるほどに時が流れるまで呆然としていた孔明だったが、やがて意識を取り戻したかのように真顔で手を組んだ。

(…えっ、今僕、疲れすぎて夢見てたかな)

わりと本気でそう考えた。
木札を懐にしまい、冷たくなった手で彼女の触れた跡をゆっくり順に触れる。
手の先、頬、両耳、ーー額を超えて、つむじ。

「……なんで、つむじ…。ていうか、全く先が読めない」

両手で顔を覆い、その場で小さく地団駄を踏んでしまう。

…誘ってるのか、そうだ、これは誘ってるんだ!…と言うことは、あのまま指の先にキスしても良かったんだ!というか、頬に触れても良かったかもしれないし、僕も、花のつむじにキスしても良かったんでは…!?
時よ戻れ!!



ーーと、ここまで脳内で吐き出しながら、すっかり冷えた水を手に、今日は出来るだけ髪を洗いたくない…と思う孔明であった。




※木札は渡された当日のみ有効・再発行不可

と豆のような文字で裏面に書かれていることなど、
遅い春が来たばかりの師には、未だ気づかない。






お気づきかもしれませんが、ピュアっとモヤっと師弟すぎて、未だキスすらしておりません。
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