君は生き、僕は帰る/オスリモ/再録甘め

15年近く前のものが出てきました。
別名義でオスリモサイトをしてた時のものなので、再録となります。






君は生き、僕は帰る



知っていましたか?オスカー様。

―――私、貴方から好きだと言われた事、なかったんです。



誰も、こんな結末を望んでいた訳じゃなかった。
しとしとと降る雨音しか聞こえない静かな部屋の一室で、今、静かに終わろうとしていた物があった。
ちくりと胸をさす痛み。次の言葉も浮かばないほどに動揺した頭。彼女のスーツケースから落ちたハンカチーフが、扉からの微かな風に揺れる度に現実感が押し寄せる。

「嘘・・・だろう。こんな・・・」

こんな馬鹿な事がある訳がない。彼女はきっと―――そう、すぐに帰って来る。

いつものように笑顔で俺に駆け寄り、軽く背伸びして首に腕を回して抱きつく。甘いロマンスの香水が髪の先から香り、俺はその匂いに満たされて仕事の疲れを忘れる。
華奢な身体に己を混ぜあう瞬間も、快感につま先がしなる危うさも、先ほどまで確かに自分のものだったのに。


――――彼女は、俺に飽きたのか。


オスカーは、目に当たる光に眉を顰めて、ベッドサイドの置き時計に目をやる。
隣でまだ寝息を立てる女から離れ、伸びた赤い髪を乱雑にかき上げると、ベッドに腰掛けて小さく息をつく。
気だるい朝。彼女が出て行った日から、ずっと同じ。
もう半年も前に出て行った女をまだ未練たらしく追いかけている自分が情けなくもあり、そう言いながら女を連れ込む自分に呆れたり。どちらにしても、俺の日常は、彼女のいた時から比べ物にならないほど、荒れていた。

最初は、彼女の帰りを待った。仕事を放り出して、彼女を探したりもした。
けれど、見つからないのだ、もう、どうしようもない。
俺は性欲だけを押し付けた女を最後まで見る事無く、ワイシャツに袖を通していつもの日常を繰り返す。

「悪いな、ランディ。日の曜日に呼び出して」
「いいえ、全然構わないですよ。どうせ女王試験も終わって、暇してたんです」

まだ日が昇ったばかりの日の曜日の公園。
暇をしていた――というのは本当だろうが、本当ならもっとゆっくりしていたかったに違いない。女王試験が終わると同時にジュリアス様より一人前の仕事を託されたランディは、まだ眠そうに欠伸をかみ殺していた。

「と、それより―――これ、本当に処分しちゃっていいんですか?」
「ああ、もう必要ないからな」
「でも…」

まだしぶっているランディの声を遮るようにため息をつき、両手に抱えていた紙袋を手渡した。
端から除く女物の服に見覚えがある奴は、紙袋を受け取り、俺よりも大きなため息をついた。

「彼女はもう帰ってこない。…もし帰って来るとしても、今の俺を見たら…な」

彼女が帰ってくるのを待てるほど、年をとっていなかった。
若すぎた別れは、狂おしい夜を忘れさせてはくれなかった。彼女に似た金の髪や碧の瞳を見つけては一夜の夢に堕ちる。
全ては彼女を愛しているから―――聞こえはいい。
けれど、つまりは…彼女を待てなかった男の言い訳。

「分かりました。…それじゃ」
「ああ。…ランディ」

遠ざかっていく茶色の髪。そして、彼女の思い出。
手元に置いておけば、忘れられない。忘れる事なんて、出来ないけれど。
耐えられそうもなかった。彼女のいない部屋で、彼女のいない時で、彼女のいた軌跡を追いかける日々は。
今、ここに終わる恋があった。




続く

もちろん、タイトル通り甘めですのでご安心ください
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