メーキングメモリーズ | ナノ


04  




 春光

「―......んっ......ん?ん?」
目を開けたそこに見える景色は、どれも見覚えのないものばかり。

腕に力を入れ、重い上半身を起こした。
薄い布団の被せられたベッドの上に、俺は居た。

記憶にある自分の部屋とは比べ物にならない広さの部屋に驚く。
辺りを見渡す。

ベッドに衣装ダンス、本棚にチェストといった物が、綺麗に配置されており、
それでも部屋が広い分、俺の部屋よりもさっぱりとしている。

(......てゆうか、ここどこだよ)
「.........」
(えぇー...)
ガチャ
「――.....?!」

チェスト横にある扉が開いた。
「.....あれ、起きてたんだ。春光君」
「.....あ、はぁ?」

笑みを浮かべながら、ジッと俺を見て、近づいてくる奴。
「ゆ、りお....だったか?」
「うん、そう。百合男だね」
(買い物途中で............?!)

「ちょ?!ここどこだよ!!!」
お使いの途中での強制的な連行を思い出し、思わず身を乗り出す。
「あはははっ」
(あはは、じゃねぇ!!!)
こいつを見てると無性にイライラする。
鼓動を早くする心臓。
「大丈夫だよ。後で教えてあげるから」

何か言おうにも口が動かず。

ふと、彼がさっき会った時とは、服装が違う事に気付く。
異国風の赤い色を使った服を身に着けている彼は、
どうもその姿の方がしっくりくるような、不思議な思いにかられる。

俺はと言うと、訳も分からず泥のようなもので汚れた、Tシャツとジーンズ。
見に憶えのない事態に、とりあえず身の安全を確認した。

「あ、服?ごめんね、汚れてるよねー。勝手に着替えさせるのもあれでさぁー」
そう言って、部屋の端に置かれた衣装ダンスから、一着投げられる。
「ほらっ!サイズは今の君ので頼んどいたから、大丈夫だよ」
(随分いいとこの奴なんだなぁ)

投げ渡されたのは、青を基調とした、彼と同系の異国風衣装。
コスプレしている気にもさせられるが、
これが今俺がいる所の、普通の格好なのだろう。

(.....それよりもだ)
「何で俺の服、汚れてんだよ」
はたと自分の服への疑問が蘇る。

「あーごめんね。こっちにとんだ所が悪くてさぁー」
あははっと苦笑う彼。

「まさか山の、しかも斜面に降りるとは思わなくてさっ」
さっきからとんだ、やらおりた、やらが訳が分からず付いていけない。

けどそれよりも......
「斜面?!......その後どうしたんだよ!!」
「ん?そりゃ...重力に任せて下まで。うん。ゴロゴロと」
(ご、ごろごろ.....)
山の斜面を生身で転がり落ちる、不参な情景が頭を過ぎり、青褪める。

「怪我は!!」
「あー、それは大丈夫。ちゃんと全部治しておいたから」
彼は手をはたはたと振って笑った。

どう治したかは知らないが、身体が無事な事に安堵する。
「あ!治す前の写真とかあるけど、.....見る?」
笑う彼とは真逆の残酷な提案。
視界の端に、赤黒いそれが映りこみ、全力で頭を振った。

ほんとに、どうやって治したんだよ。

グロテスクなものが苦手な訳ではないが、
誰も自分のさぞ悲惨であろう姿なんて、見たくない筈だ。
「そっかー、残念」写真をしまった。

「な、なぁー」
「なに?」
「ここ、どこなんだよ。いい加減教えろよ」

「あぁー」表情を陰す彼。

「ここに来る前に言った事、そのまんまだよ」
出窓に手を着き、春に似合う青い空を見上げる。



「ここは、僕と君の故郷。ウィンタリオンの統べる町、
  ―――アザンだよ、ヴァーナル」


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