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少女、現状把握する [ 2/41 ]


「鬼さんこちら、手のなる方へ」
 手を叩きながら鬼を自分の方へと誘導していく。
 後方では、唖然と私達を見る少年と猫ウサギの姿が見える。
 妖の意識は、私の方にあるのだからまあ良しとしよう。
「私を捕まえられたら。食べるなり何なり好きにすればいいよ」
 ヒラヒラと妖の手から逃れつつ、私は一目散にその場を駆け出した。
 腕を大きく振り足を上げる。徐々に加速する逃げっぷりに、妖も意標を突かれたのか慌てて追いかけてくるもグングン引き離されていく。
 三十分ほど走り続けて漸く妖を巻いた。
「はぁ〜、疲れたわぁ」
 全力疾走を三十分もすれば疲れて当たり前なのだが、一体ここは何処だろう。
「お腹空いた……」
 グーッと夜空に腹の虫の音が空しく鳴り響いた。


 一夜明けて私は聞き込みを開始することにしたのだが、私の姿を見て人は逃げていく。
 会話らしい会話も出来ず、現状把握どころではなく、このまま飢えに苦しんで死ぬんじゃないかと思ったくらいだ。
「ご飯食べたい。お風呂入りたい。ふかふかのお布団に寝たい」
 呪文のように煩悩を口走る私に、足元から声が聞こえてきた。
「人間だ。人間の娘がいる」
「変な着物を纏っているぞ」
 音源を捜すと、木の間や草の陰から小さな妖怪が顔を出している。その数半端ない。
「やや、あいつは例の妖と鬼事して勝った奴じゃないのか」
「あれとか!? じゃあ、妖怪なのか?」
 私が気付いていることに気付かないのか、雑鬼共は言いたい放題言ってくれる。
 内心ムカつきつつも、私はそれを顔に出すことなく雑鬼たちに声を掛けた。
「ねぇ貴方達、ちょっと教えて欲しいんだけど」
「うわっ! 喋った!! しかも俺達が見えてるぞ」
 一気に焦りだす雑鬼に、落ち着けと近くにいた雑鬼の頭を叩く。
「私は、藍。聞きたいことがあるんだけど」
「聞きたいこと?」
 胡乱気に見る彼らに、私は肩を竦める。まあ、普通の反応だ。
「まず、ここはどこ?」
「お前、ここが何処だか分からずに来たのか」
 私の質問に彼らは円らな瞳を大きく見開きゲラゲラと笑い出す。ひとしきり笑った後、ここが京都だと教えてくれた。
「一条大通りの外れの元貴族の屋敷さ。今は俺らの住処だけどな!」
 なるほど、所々傷みはあるが雨風を凌ぐ分には十分と言えるだろう。私の格好がおかしいと言うなら、過去の可能性は大である。
 昨日逢った少年の服装を考えれば明白である。狩衣が普段着とすれば、良いところのボンボンだろう。
「今、政権を握っている人って誰?」
「藤原道長だな」
「一条天皇の時代か……」
 何らかの作用で時を渡ったと考えるのが妥当だろう。黙り込んだ私に、雑鬼達はついていけなかったのか首を傾げている。
「よし、暫くここに住ませて貰うからよろしく」
 ニッコリと笑みを浮かべ宣言すると、悲鳴が上がり邸を揺るがした。

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