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少女、世界を渡る [ 1/41 ]


 中身は腐っても生物学上は乙女。そう主張しても、彼氏居ない暦十数年(年齢言ったら絶対引くからね!)な私こと神月藍は、今起きている事実に頭がビックバーンを起こしています。
 目の前に広がるのは、太秦にある映画村のセットが並んでいるということだ。
 京都に来た覚えはないし、そもそも蔵の整理をしていた人間が一瞬のうちに瞬間移動するわけがない。
「……落ち着け私。まずは、現状把握と寝床の確保よ」
 バシッと頬を叩き顔を上げる。内心の焦りは酷いが、啼いて喚いたとしても現状が変わることはない。
 まずは、人を探すことから始めようと決めた矢先に、明らかに人外ですね!と突っ込みたくなるような存在と遭遇し、命を掛けたデスレースが始まった。


「クッ……しつこ過ぎる」
 素足で地面を走るには、聊か――いや大分苦痛だ。恐らく足の裏には、無数の傷があるだろう。
「え…さ…え…さ…食いたい食いたい食いたい」
 ブツブツと念仏のように餌だの食いたいだの唱えている妖に、私の顔は引きつる一方だ。
 巻こうにも、なかなかチャンスがなく巻けない。
 角を曲がった先に私より幾分小さな男の子と鉢合わせになり、そのまま激突した。
 ゴロゴロと二人して転がり頭や腰を強かに打ちつける。
「昌浩っ!」
 大きな猫か小さな犬のような体躯に、ウサギのように長い耳を持つ小動物が喋った。
「猫? いや、ウサギ?」
 かの動物から感じるのは肌を刺すようなピリピリとした気配。しかし、嫌な感じはしない。
「追いついたぞ」
 ゾワッと悪寒が走り、振り返ると私を追いかけていた妖が立っている。
 襲い掛かろうとしている妖に、私は咄嗟に土を掴み妖の目を目掛けて投げつける。
「逃げなさい!」
「えっ! ちょっ……」
 男の子の静止も聞かず、私は妖の前に躍り出る。嫌過ぎる。怖すぎる。涙ちょちょぎれそーよ、私。
 内心泣きつつも、自分より小さな存在を守らなければ人として廃るのはごめん被りたい。
「妖さん、私と勝負しましょう」

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