小説 | ナノ

3.赤鶏と偽姫を断罪しよう [ 10/21 ]


 ユリアシティに到着した私達は、タルタロスから降りこれからどうするか考えるために市長のところへ行くことにした。
「ルーク様、まずは市長のところへ行き今後のことを話し合いましょう」
「俺が、行ったところで何も分かんねぇしジェイドで十分だろう。俺、決定権もないしさ」
 今まで何一つ決めさせてもらえず、無知を理由に何一つ教えて貰えなかったことが良く分かる一言だった。
「ルー……」
「とことん屑だな! 出来損ない」
 私の言葉を遮り、怒鳴りつけるような声に前を歩いていたイオン達の足が止まり何事かと振り向いた。
「屑は貴様だろう、鮮血のアッシュ。キムラスカ王位継承権第三位のルーク様に向かって不敬ですよ」
 ルー君を背中に隠し、棍をアッシュに突きつけ威嚇するも相手は超が頭に付くほど愚かだった。
「どうしてお前がここにいる。ヴァンはどうした?」
 警戒心を露にしたガイが、アッシュを睨みつけて問い掛けた。当の本人は、自分に酔いしれているのか「ヴァンの企みに気付いていたら〜」と胡散臭いことを宣っている。
「ヴァンの手先が、今更被害者面かよ。あいつ、マジ部下に恵まれてねーのな」
 心底呆れた顔でアッシュを眺めていたルークが痛烈な一言を零した。
「何だと! 大体、そこにいる屑が深く考えずに超振動を使ったからこうなったんだろうが」
「ルーク様が悪いと言いたいのか?」
「悪いに決まっているだろうが! この屑が!! ふざけたこと言うな」
 私の背後で肩を大きく震わせ俯くルー君に、自称仲間たちから同情の視線が集まっている。これだけ色々と自分でボロを出すのだ、この手でギッタンギッタンに伸さなくても勝手に自滅してくれるだろう。
「そいつはな、俺のレプリカだ! 出来損ないの屑レプリカに、俺の居場所を奪われたなんて信じたくもねぇ!!」
「レプリカって何ですか、大佐?」
 聞きなれない言葉にアニスは隣に居たジェイドに問い掛けた。ジェイドは、ずれてもいない眼鏡を押し上げてレプリカについて説明を始めた。
「物質を複製する技術をフォミクリーと言います。複製の元となったものを『オリジナル』と呼び、複製を『レプリカ』と呼んでいます。ルークは、アッシュのレプリカです」
「じゃあ、ルークって人間じゃないの? 化け物じゃん!」
 声を上げてレプリカを化け物と叫ぶアニスに、手加減なしのグラビティを放っていた。
 あまりの出来事に声も出せないのか、這い蹲って呻いている。
「貴女、アニスに何するんだ!」
「ルーク様に不敬を働いたので制裁を加えただけですが何か問題でもお有りですか?」
 圧死一歩手前で調整するのに神経を使うと言うのに、無能護衛は見当違いな正義を振りかざした。
「やり過ぎだろう!」
「おーい、そこの眼鏡ちょっと良いか?」
 ルークが、ジェイドに向かって質問すると奴は呼び方が気に食わなかったのか一瞬顔を顰めたものの応じた。
「ジェイドです。何ですか」
「俺が、ピオニー陛下に化け物と罵ったとする。罰しないのか?」
「馬鹿言わないで下さい。拘束して晒し首にしますよ」
「だよなぁ。主が蔑まれているのを見過ごす護衛ってなんだよ。ただの給与泥棒だろう」
「名前の通り害しか齎さないから仕方ないのよ」
 ずけずけと言いたい放題の私達に言葉で勝てないと判断したのか、ガイは無言になった。最初から口を挟まなければ良いのに。
 そう思っていたら、ナタリアが何やら昔の話を持ち出していた。
「アッシュが……貴方が、本物のルークなのですか? 本物だと言うのなら私との約束も覚えてらっしゃいますわよね?」
「嗚呼、いつか俺たちが大人になったらこの国を変えよう。貴族以外の人間も貧しい思いをしないように、戦争が起こらないように…死ぬまで一緒にいてこの国を変えよう」
「彼が、本物のルークですわ!!」
 ナタリアの言い草は余りに拙い。本物と言われたアッシュのドヤ顔は見ていて不愉快だ。
「だから、言葉駄々漏れだって」
 ルークの突っ込みに、私は口元に手を当ててオホホホと笑って誤魔化してみるが、名指しされた二人は顔を引きつらせている。
「わたくしのどこが拙いのです。約束を覚えている彼こそ、本物のルークですわ」
「今、ここにいるルーク様は偽者だと仰りたいの?」
「そうですわ!」
 言い切ったナタリアに、私は薄く笑みを浮かべて言った。
「鮮血のアッシュは、タルタロス襲撃の実行犯です。また、カイツール軍港襲撃の主犯であり、キムラスカに認められているレプリカルークを幾度も殺そうとした。そうですよね、ルーク様」
「あ、ああ……」
 私の問い掛けに戸惑いながらも頷くルークに、私はにっこりと笑みを浮かべナタリアの方へ向き直る。
「何か理由があったのですわ!!」
「タルタロス襲撃については上官命令であったとしても、自国の民を己の欲望の為に手に掛けておいて『理由があるから許される』で全て解決すると思っている辺り相当お目出度い頭しているんですね。王命を無視し、出奔して王女を捨てた貴女にはお似合いの男かもしれませんね」
「お父様は、許してくれますわ!!」
「アッシュ=本物のルークだったら、お前のせいでファブレは国家反逆罪に問われてお家断絶になるだろうな。居場所を奪われたとか言う割に、奪い返しにこない上にダアトで師団長を勤めているくらいだ。ある程度自由はあっただろう。それなのに戻ってこなかったのは、最初から帰る気なんてなかったんじゃねーの?」
 ルークの指摘に、アッシュは漸く状況を理解したのか真っ青になっている。死ななきゃ救いようがないナタリアと比べれば幾分マシだと言えるだろう。
「王命に背く者を許したら、それこそ王の地位が揺らぎかねないんですよ。許したら王の権威は失墜し、クーデター起こされて首チョンパでTHE ENDです。ご大層な約束を口にする割に守れていないとは滑稽すぎて涙が出ます。嗚呼、言い訳は結構ですよ。耳が腐ります。貴女が出奔したことで、どれだけの人間が処刑されたのか戻った時に確認すると良いでしょう。ルーク様がそこの大罪人に誘拐された時も、ファブレに仕えていた者たちはクビを切られたものが居たでしょう」
 物理的かどうかは別としてだが。そこまで言って、ナタリアは漸く事態が飲み込めたのか口に手を当て膝をつき嗚咽を漏らした。
「どちらに転んでも罪は免れないでしょうね」
 アッシュとして生きてもルークに戻ったとしても極刑は免れないだろうアッシュと、出自はどうであれ己の愚行ゆえに自分の首を絞めたナタリア。
 満面の笑みを浮かべながら、仲良く死の旅路へ送り出してやろうではないかと慈悲深いことを考えていた。

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