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37.司法取引にティア絶句 [ 38/72 ]


「ルーク、よく戻った。そなたが、ルークの言うティアか」
「この度は、私怨に巻き込む形でルーク様を外に連れ出してしまい本当に申し訳ありませんでした」
 私は、即座に跪き臣下の礼を取りながら謝罪の言葉を述べる。クリムゾンは、それを手で制した。
「ルークを連れ出したのは、ヴァン・グランツの妹だ。貴殿ではない。マルクトにも確認を取ってある。マルクト旧家フェンデ家の姫だ。そうだろうメシュティアリカ・アウラ・フェンデ」
 是以外は受付けないと言わんばかりに威圧感たっぷりに言われ、私は眉を顰めた。
「……確かにそれが本名ではありますが、私がフェンデ家の者と証明するものは何もありません」
 フェンデの者と証明する唯一の品は、旅の為に手放している。マルクトに確認すると言っても、彼らもフェンデ家はホドと一緒に途絶えたと思っているはずだ。
「マルクト皇帝直筆のサインが入っている」
「見せて頂けますでしょうか?」
 ホド崩落で唯一のフェンデ家生存者であり、和平の印に私がルークのところに輿入れさせると書かれている。
 人の預かり知らぬところで何勝手に決めているんだ、あの愚帝!! と怒り心頭に思わずグシャリと手紙を潰してしまった。
「メシュティアリカ姫ではないと言うならば、私は貴殿を捕え首を刎ねねばならん」
 ティア・グランツとして刑を受けるか、メシュティアリカとして生きるか究極の選択か。
「公爵、一つお聞かせ願えますでしょうか?」
「何だ?」
「フェンデ家は、ホドの崩落で没落した貴族です。嫁いだとしても、メリットはありません。何故私なのでしょう」
「類稀なる才能をキムラスカで発揮して貰いたい」
 なるほど、そういうことか。敵に回れば厄介と判断したクリムゾンの感は間違ってはいない。大方、マルクトに私の罪隠蔽工作の片棒を担がせたのか。
 私を手の内の治めるには、賊を『ティア・グランツ』という別人に仕立て上げる必要があった。
 ルークの敵に回ろうものなら、キムラスカであっても牙を剥くのだが今は言う必要も無いだろう。
「ルーク様の為ならば喜んで発揮しましょう」
 ルーク以外の命令は聞かないと暗に言うと、クリムゾンから文句は出なかった。
「時にティア殿」
「何でしょうか?」
「贈られてきた仔ライガと子チーグルなのだが……。何とかしてくれないか」
「は?」
 思わず間抜けな返事をしてしまっても致し方がないと思う。
 非常に情けない顔で視線を下げるクリムゾンに首を傾げながら、彼に近付くと膝の上で丸くなっているミュウと仔ライガを見て固まった。
 すぴょすぴょと寝息を立てている姿は可愛いのだが、もきゅもきゅとクリムゾンのシャツを食んでいる仔ライガにヒーッと声なき悲鳴が上がった。
「すみません。今退かします」
 ミュウと仔ライガを両脇に抱えると、いきなり不安定になったことで目を覚ました彼らは非常に五月蝿かった。
「みゅ〜……ご主人様の匂いがするですの」
「ミャーミャー」
 ジタバタと暴れる二匹は、意外と重くて不覚にも落としてしまった。ボトッと落ちた小動物たちは気にすることなく私目掛けて体当たりしてくれた。
「ご主人様、会いたかったですの〜
「みゃーん」
 方や胸にダイブし、方や股間を直撃し尻餅をついた。痛みと情けなさで泣きたい。
「ちょっとデカくなったか?」
「悠長に観察してないで助けて下さい!!」
 ヘルプの声を上げるも、ルークは動じた様子もなく股間に張り付いていた仔ライガを引っぺがし抱き上げている。
「ルークさんも久しぶりですの!」
「おう、元気そうだな」
「人の胸の上で挨拶するな!」
 べったりと張り付く変態チーグルを無理矢理引っぺがしたのが悪かった。ビリッと嫌な音を立てて服が破れたのだ。
 流石に露になった胸を隠す私と対照的に、顔を赤く染めて目を反らすファブレ親子は、変なところで似ているとちょっと思った瞬間だった。

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