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36.公爵の打算とティアの誤算 [ 37/72 ]


 王都バチカルに着いた私達は、将校二人と数名の兵に出迎えられた。王族を出迎えるにしては、少々控えめな印象を受けるがルークの出奔は事故であり民に伝えられているわけではないので妥当と言えるだろう。
「ルーク様、ご帰還心よりお待ちしておりました」
 ビシッと敬礼を取るジョゼット・セシル少将とゴールドバーグ将軍に、ルークは鷹揚に頷いて見せた。
「出迎えご苦労。こちらが、和平の使者アスラン・フリングス少将だ。マルクトからの旅路だけでなく、カイツール襲撃の際にも快く力を貸してくれた。是非とも陛下に報告したい」
「畏まりました。陛下も和平の使者殿とお会いできる日を楽しみにされております。城には、このセシルが責任持ってお連れしましょう」
 ゴールドバーグの言葉に、セシルは一歩前に出て小さく会釈した後、アスランを王城へ案内するためその場を離れた。アスランと数名の部下、そしてセシルの背中を見送った私達はゴルドバーグと対峙する。
「ルーク様、そちらの女性は?」
 キターッ!! まあ、バチカルに着いたら速攻憲兵ものだろうと予測はしていたが、ルークの生家まで送り届けられないのは残念だ。
「嗚呼、手紙で書いた人物だ」
「賊からルーク様を救ったメシュティアリカ姫ですな。お会いできて光栄です」
 にこやかな笑みを浮かべるゴルドバーグに、私は一体どういう事だとルークを見ると、彼は良い笑顔でこう言った。
「やるなぁ父上、こう来るとは予想外だ」
「一体何をしたんですか!?」
 外で下手なことを言えないのは分かるが、事前に説明の一つや二つして貰いたかった。
「ちょっとばかしお願いをしただけだ。詳しいことは、父上から話があるだろう」
 ハハハッと隣で笑うルークが、腹黒く見えた気がした。普段は抜けているくせに、案外食わせ者なのかもしれない。
「そこの二人は、俺が直々にスカウトしてきた逸材だ。今後のこともある。屋敷に向かいたい」
「畏まりました。私が、護衛致します」
 私は、『将軍に護衛される』という何とも贅沢且つ貴重な体験を強いられることとなる。


 王城の直ぐ傍にあるファブレ家の門を再び生きて潜ることになろうとは思いもしなかったと感慨深く考えていたらシンクに背中を押された。
「何ボーッと突っ立ってんの。邪魔だよ」
「悪かったわね。それより、シンク言葉遣いちゃんとしてよ。不敬罪で職失いたくないでしょう」
 キャッツベルトで2歳児のお子様に使用人としての態度などを叩き込んだは良いが、時間も無かった為焼き付け刃でしかない。
 不安と書かれた顔を見たシンクは、憮然と私を見てそんなヘマはしないと断言するが、その態度が心配なのだ。
「貴方の態度一つでルーク様の顔に泥を塗るんだからね」
「……本当、あんたルーク……様至上主義だよね」
 ルークと呼び捨てになりそうになったシンクの脛を蹴り飛ばし、何とか様付けさせることに成功した。
「何とでも仰い」
 フンッと鼻を鳴らしたところで、執事と話し込んでいたルークからお声が掛かった。
「おーい、何してんだ。早く入ってこいよ」
「はい」
 私は、シンクの服を掴みずりずりと引きずりルークの元へと駆け寄った。
 彼に使えるメイドや騎士達の視線は、やはりと言うべきか厳しい。私が襲撃犯だと分かっているだろうが、何も言ってこない辺りゴルドバーグの態度と何か関係しているのかもしれない。
「シンクとディストは、応接室で待っててくれ。ティアは、こっちだ」
 シンク達と別れルークに連れられて向かったのは、クリムゾンの私室だった。
「父上、ルークです。ティアを連れてきました」
 中から入室を許可する声が聞こえ、私は内心冷や汗を掻きながらルークに促されるままに部屋の中へと入った。

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