小説 | ナノ

38.ナタリア姫ご乱心 [ 39/72 ]


 破れた服を着替え、私達を待つシンク達と合流すべく応接室へと足を踏み入れた。
「ルーク!! 無事でしたのね」
「ゲッ……ナタリア」
 一国の姫とは思えない立ち居振る舞いに唖然とする私を余所に、ナタリアはルークに詰め寄っている。
「ゲッとは何ですの! 婚約者たる私が心配して貴方の帰りをずっと待っておりましたのよ」
 何だこの恩着せがましい女は。思わず胡乱気な目でナタリアを見てしまったのが運のつき。
「何ですの、貴女」
 品定めをするように私を見た後、般若を思わせる形相でルークの胸倉を掴み上げて問い詰めている。
「ルーク! これは、一体どういう事ですのっ。わたくしという者がありながら、使用人に手をお出しになったと言うの?」
「違うっつーの! こいつは、マルクトで俺を助けてくれたんだ」
「わたくしは、メシュティアリカ・アウラ・フェンデと申します。義父よりルーク様の護衛の任を賜りキムラスカまでお連れ致しました」
「まあ、そうでしたの。ルーク、本当にこの方と何でもないんですわよね?」
「だから、何でもねーっての!」
 どんだけ嫉妬深いんだ。ナタリアの嫉妬深さに私は、ルークに向かって合掌をしているとギッと彼に睨まれた。
「まあ、良いでしょう。叔母様も心配なさってるわ。顔を見せて差上げて」
「言われなくてもそうするってーの」
 さっさと帰れと言わんばかりに手を振るルークに、ナタリアはいつもの事と捉えたのか別段怒ることもなく彼女は嵐のように去っていった。
「……あんなのが一国の姫だなんて世も末だね」
 ボソッと呟かれたナタリアの評価に、ルークは乾いた笑みを浮かべるしかなかった。
「シンク、本音と建前は使い分けないとダメだって言ったでしょう」
「良いじゃない。僕達しか居ないんだし」
「そうだけど……」
 開き直ったシンクに何を言っても無駄と判断した私は、盛大な溜息を一つ吐いた。
「先ほど、メシュティアリカと名乗ってましたがどういう事ですか?」
「嗚呼、それね」
 ディストの問い掛けに、嫌なことを思い出した。眉間に深い皺を刻む私に対し、地雷を踏んだと悟った彼らはそろそろと後退していることに気付かなかった。
「私の本名よ。キムラスカ的に私を取り込みたかったみたい。今の私は、マルクト屈指の旧家フェンデ家の姫で襲撃犯は別にいるって事になってるから。あの愚帝、人の了承なしにルークのところに嫁がせやがって。次会ったら本気で殺す」
「ふ……ふーん…」
 聞くんじゃなかったと後悔しているディストとシンクを余所に、当事者であるルークは不機嫌そうな顔をしていた。
「ティアは、俺じゃ不満なのかよ」
「将来有望で色々と楽しみな男の子だとは思うけど。実年齢七歳だとねぇ。性犯罪者にはなりたくないし」
「俺は、十七歳だ!」
「ハイハイ、外見年齢がでしょう。中身は七歳OK?」
「……」
 幾らなんでも七歳児を男として見ろというのは無理があると断言したら無言になった。
「ティアってさ、時々すっごくデリカシーのないこと平気で言うよね」
「彼女にデリカシーを求める方が酷だと思いますよ。何より髭の妹ですから」
 全く持って嬉しくない評価の仕方に、私の機嫌は急降下だ。
「ご主人様、この人誰ですの?」
 肩に乗っていたミュウが、ディストを指差して首を傾げている。そう言えば、ミュウや仔ライガはディストと初対面になるのか。
「彼は、ディストと言ってルークの下僕よ」
「違います! 協力者です」
 間髪居れずにディストのツッコミが入るが、ミュウは全然聞いていなかった。
「ルークさんの下僕ですの? 僕と一緒ですの!! 下僕同士仲良くしたいですの。よろしくですの〜」
 ミュウの言葉に撃沈するディストをシンクだけが哀れそうに見ていたが、私は気にすることなく早速彼に雑用と言う名の命令をしたのだった。

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