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33.連絡船キャッツベルト [ 34/72 ]


 アッシュは捕縛、ディストは任意同行(と云う名の強制連行)し、連絡船キャッツベルトに乗込んだまでは良かったのだが――。
「フォニックソードは置いてないのかよ」
「申し訳ありません。取扱っておりませんので……」
「じゃあ、フォニックブレードは?」
「それも……」
「ソウルクラッシュならどうだ?」
「……」
 キャッツベルトで商いをしている武器屋の前で繰り広げられるこのやり取りは、彼是30分は経っている。
「ええーっ、何で無いんだよ」
 ブーブーと文句を言い出したルークに対し、商いの男は青ざめている。相手は王族、機嫌を損ねたら首が飛ぶとでも考えたのだろう。
「ルーク様、フォニックソードもフォニックブレードも譜術戦争時代の六王国の遺産です。入手困難な代物ですよ。無理難題吹っ掛けたら可哀想でしょう。ソウルクラッシュは、バチカル闘技場で個人優勝すれば貰えますが、何で武器を購入しようとしてるんですかね?」
 大人しくしとけやと暗に言ってみれば、ルークはケロッとした顔で護衛泣かせなことを言い放つ。
「この剣、軽すぎて使いづらいんだよな」
 キラーソードを手に不満を零すルークに、私は顔を引きつらせる。剣を持たせること自体させたくなかったのだが、タタル渓谷に飛ばされた当初は私がLv.1という弱さの為、身を守る為に用意したのが始まりだ。
 グランコクマで一番攻撃力の高い剣を勝手に購入していた時は、それこそガミガミと効果音がつくんじゃないかという位叱った覚えがあるのに、全然これぽっちも理解していないルークに私は涙が零れそうになった。
「剣を持つ必要はありません。寧ろ、それも要らないくらいです」
 キラーソードを指差し憮然とした顔で告げる私に対し、ルークも負けてはいなかった。
「これは、自分を身を守る為の投資なんだ。ティアが、俺より強くなったら剣を手放してやるよ」
と宣った。例えるならLv.1の勇者が、Lv.100のラスボスに挑戦しろと無茶を言っているようなものである。
「ルーク様、ちょっと……」
 ルークのフードを鷲掴み、ずりずりと宛がわれた客室に放り込む。パタンとドアを閉めた後、大音量の説教が響いた。
「ソードダンサーを一撃で倒す貴方に勝てるわけないでしょうがぁあっ! 剣片手に特攻かます王族がどこにいる!! 怪我したら、貴方を護衛している者が処罰されるんですよ。まず、王族としての自覚が足りません。良いですか、王族とは――」
 ディストの事情聴取を放置しつつ、私はルークに王族とは何たるかを講義に丸一日費やしたのだった。


 ルークは、ノンストップの何ちゃって王族の心得講義の最中に夢へと旅立ってしまったので漸く一息吐くことにした。
 お腹が空いたので客室を出て食堂へ移動している最中だった。反対側からアスランが歩いてくるのを見つけ声を掛けた。
「フリングス少将」
「ティア殿、もうお説教は終わったんですか?」
「ルーク様が寝ちゃいまして切り上げました」
と返せば、彼は苦笑を浮かべた。敵将にまで苦笑されているぞ、ルーク。威厳もあったもんじゃないなと一人思っていると食事に誘われた。
「これから食事をしようと思っていたのですが、一緒に如何ですか?」
「私もお腹が空いたので、食事にしようと思っていたんです。ご一緒させて下さい」
 断る理由もないので私は、アスランの申し出を受けた。さりげなく私をエスコートするアスランは良い男だと思うのに、顔が好みじゃないのが残念だ。
「アッシュの様子はどうですか?」
「一度は目を覚まし暴れたのですが、シンク殿が押さえてくれて被害は出ませんでした。今は、気絶しているので静かなものですよ」
 シンク、お前は一体何をやったんだ。手加減を知らないお子様に昏倒させれるのも情けない話だが、相手が規格外に強くアッシュが規格外の弱さなので不幸としか言いようがない。同情はしないが。
「ディストは、どうですか?」
「落ち着いていますよ。ルーク様に関わることなので、迂闊に人の居る場所では話せません」
 アスランの様子からして、恐らくルークがレプリカという情報を得たのかもしれない。
「ルーク様にも聞いて貰った方が良さそうですね」
「どうでしょう。私は、話すべきかどうか迷っています」
「ルーク様は、ああ見えて柔軟な方です。真実を隠し続けて、最悪な形で露見するよりは事前に話しておいた方がショックも少ないかと思います」
「……そうですね」
「まずは、腹ごしらえしましょう。今、寝てらっしゃいますし。彼が、起きてからでも良いのではありませんか?」
 急ぐことではないだろうと暗に言えば、暗かったアスランの表情も少し明るさを取り戻した。

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