小説 | ナノ

32.跪いて許しを請え [ 33/72 ]


 流石に六神将と魔物の討伐に丸腰は拙いだろうという事で武器の所持を許可されたのだが、『武器が無くてもいけるんじゃね?』と思えるほどアスランの部下は強かった。
「フリングス少将の部下だけで十分おつりがきそうね」
「一度手合わせしてみてーなぁ」
「嗚呼、それは分かる。アッシュぼこった後で、船の整備が終わるまで時間が出来るだろうから手合わせして貰おうよ」
 うずうずと手をグッパーしているルークと、シンクは超いい笑顔でアッシュ撲殺をさらりと宣っている。
「俺、フリングス少将と戦ってみたい!」
「はぁ! 何言ってるんだよ。僕が先だ」
「俺が先!!」
 当人そっちのけでギャイギャイと言い争う二人を微笑ましく愛でつつ、隣で青い顔をしているフリングスの肩を叩いた。
「良かったですね。ご指名ですよ」
「ティア殿、止めて下さい。後生ですから」
「え? 嫌ですよ。面倒臭い。適度に運動させておかないと彼らのストレスが溜まるじゃないですか」
と嫌そうに切り捨てれば、そんなぁ……と何とも情けない声が聞こえてきた。
「大丈夫。ルークもシンクも強いです。多分半殺し?……で済むです」
「アリエッタ、それフォローになってないから」
 なまじ腕に自信がある二人だが、手加減というものを知らないせいか全力で向かってくる。
 殺しはしないが、全治××ヶ月の大怪我をさせることも多々あった。主に旅を続けてきたマルクト兵だったり魔物だったりする。
「でも、流石に和平の使者を全治××ヶ月の怪我を負わせるわけにはいかないし……。仕方がない。バチカル着いたら、闘技場に連れて行きましょう。ガルドも稼げて一石二鳥」
と代替案を提案したら、アスランがあからさまにホッと安堵の息を漏らした。そんなに戦いたくないか、あの二人と。
 長い間放置されていたと言うだけあって所々傷んでいたりするものの、修復すれば十分使える状態だ。
「アッシュをぼこった後で使える部屋だけ掃除して崩れたりしている場所は補強するか立ち入り禁止にしておなかきゃいけないわね」
 城の見取り図があれば楽なのにとぼやいていたら、ルークに笑われてしまった。地図が無ければ、目的地に辿り着けない自信がある。
「呼び出した張本人は、コーラル城のどこにいるかも分からないし。本当……」
 最後まで口に出さなかったのが怖かったのか、アリエッタは涙目になりながらシンクの服をギュッと握っていた。
「ティーアー、アリエッタが怯えてるって。取敢えず、城の中探してたら見つかるだろう」
「そうだね。嗚呼、でも待ちきれなくてそのうち出てくるんじゃない?」
 シンクは、明らかにアッシュを探す気がない。そのまま忘れても良いんじゃないか的な発言である。
「一階の部屋からしらみつぶしに探しましょうか」
 探索と云う名の家捜しを開始した私達は、眠っているお宝をしっかり懐にせしめどんどんと奥へ進んだのだった。


 魔物を片しながら進むこと1時間。面倒臭い仕掛けを解きつつ進んだ先にあったのは、でっかい譜業がデーンッと地下中央に鎮座していた。
「おせぇっ、この屑が! しかもチャラチャラ女引き連れてきやがって、一人で来いと言ったはずだ。それすら理解出来ていなかったのか。ハッ、脳みそまで劣化しているとは」
 一方的に暴言を吐くアッシュに、隣で譜業を弄っていた白衣の男が呆れた顔で彼を見ていた。
「劣化しているのは、貴方でしょうに」
「何だと! テメェは、俺の言うことを聞いていれば良いんだ」
 どこまでも傲慢なことを宣うアッシュに、冷たい視線が彼に突き刺さる。
「ディスト何してるですか?」
「アリエッタ、おやシンクも。久しぶりですね。アッシュに拉致られて、そこのお坊ちゃんのフォンスロットを開くように脅迫されたんですよ。まあ、彼には興味がありますが……」
と、ディストはルークを何の感情も見えない目で見ている。私は、ルークの前に立ち背中に隠す。
「ヴァンの妹も一緒でしたか。噂ほど愚かではないようですね」
「何無駄話している!! さっさと、そいつを寄こせ」
「この糞鶏がっ! 跪きなさい!」
 キーッとヒスを起こすアッシュに、私はニッコリと笑みを浮かべてグラビティを放った。
 グシャッと押しつぶされているアッシュの頭をアイアンブーツでガスガスと蹴りつける。
「屑は貴様だ。軍人風情が、王族に何て口の聞き方をしている。愚兄に育てられただけあって屑なのね」
「ヴァンを悪く…言…うな…」
 くぐもった声で抗議されても全然怖くも何とも無い。喋れる元気があるなら、もう少し痛めつけても問題なさそうだ。
「愚兄のどこが良いのかさっぱり分からない。教官と愛欲塗れた憎愛劇を繰り広げようが、どのみちファブレ家の使用人とデキてるの。貴方は、愚兄に良い様に弄ばれたのよ。ルーク様を憎むのはお門違い。その大鋸屑が詰まった頭で理解できたかしら?」
 ディバインセイバーをとどめとばかりにぶちかませば、流石に耐え切れなかったのかアッシュは気絶した。
「あら、気絶しちゃったわ。だらしない」
と感想を述べるとアリエッタが、それは違うと突っ込みを入れた。
「こいつは、どうするの?」
 シンクが、ディストを指差して彼の処遇を問うてくる。ディストの言葉が本当なら、彼もまた被害者となる。アッシュが、何をしようとしていたのか聞き出すことが出来るだろう。
「ルーク様に何をしようとしていたのか聞く必要があるので、重要参考人ってことで事情聴取しましょう。言っておくけど、拒否した場合はアッシュと共犯と見なすから。その際は、キムラスカへ引き渡しすれば良いんじゃない?」
「……逃げませんよ」
 逃げるなよと笑顔で圧力をかけると、ディストはフンッと鼻で笑い意外にも抵抗も無く大人しく私達に同行することとなった。

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