小説 | ナノ

26.拝啓、父上様 [ 27/72 ]


 一羽のグリフォンが、ファブレ邸上空を旋回していたかと思うと目当ての人物を見つけたのか一気に急降下してきた。
「旦那様、おさがり下さい!!」
 突然現れた魔物に厳戒態勢になったものの、空気を読まない仔チーグルがグリフォンの頭から顔を出して暢気に自己紹介をしていた。
「ルークさんのパパさんですの? 僕は、チーグル族のミュウですの! ご主人様の命令でお手紙届けにきたですの」
「魔物が喋った!?」
「ソーサラーリングのお陰で僕喋れるですの〜」
 腰に通されたソーサラーリングを叩きながら自慢げに喋る仔チーグル。
 ミュウに掛かっては、創世暦時代の譜業も形無しである。
 しかし、手紙にしては随分と大きな箱だ。それを丁寧に地面に置いたグリフォンは、さっさとその場を飛び去っていった。
 仔チーグルが、暢気に手を振っているのを見ると明らかに目の前の小動物の世話を押付けられたと言っても過言ではないだろう。
「ミュウと言ったか、これは何だ?」
「パパさんとママさんへお土産ですの」
 一つはナマモノと書かれており、もう一つは何も書かれていなかった。マルクトで珍しい食べ物でも詰めているのだろうか。
 クリムゾンは、深く考えることなく『ナマモノ』と書かれた箱を開けた。
「ミャー」
 箱から出てきたのは、猫よりも一回り大きい猫みたいな魔物だった。思わずパタリと蓋を閉めようとしたら、小動物その2にゴスッと頭突きをかまされた。
「……何だこれは?」
「仔ライガですの。ご主人様が、ライガクイーンの卵を食べようと持って帰る途中で孵ったですの」
「つかぬ事を聞くが、ご主人様はルークなのか?」
 再確認のつもりで聞いたのが間違いだったとクリムゾンは思った。
「違うですの。ご主人様はご主人ですの。ミュウは、ご主人様に一生かけてルークさんを守るように言いつけられてるですの」
 要するにルークは、仔チーグルのご主人様とやらに体良く押付けられたのだろう。
「もう一つの箱には生き物は入ってないだろうな?」
「そっちは、お店で買ったものとかが入っているですの」
 クリムゾンは、もう一つの箱を開けると確かに店で買ったものと思われる譜業やC・コアなど高価なものが入っていた。
「ルークは、着の身着のままで誘拐されている。お土産を買うお金など持ち合わせていない。お金はどうしたのだ?」
「ご主人様のお金ですの。後、ご主人様が助けたマルクト兵が貢いでくれたですの」
「……」
 仔チーグルの話を聞く限りでは、ご主人様とやらは悪い人物ではないようだ。しかし、キムラスカに取り入る為の行為とも取れる。
「ルークさんからの手紙がそっちに入ってるですの」
 仔チーグルが、ぴょんと箱の中に飛び込んだかと思うとガサゴソと音を立てて少々厚みのある手紙を渡してきた。
 襲撃犯の情状酌量を求める内容と、襲撃に至った経緯が事細かに書かれている。二枚目三枚目と読み進めていくと、マルクトの左官が仕出かした不敬や和平強要・不当拘束などが記されている。
 良い様に利用されているかのように思えたが、和平の際に左官が仕出かした内容をちらつかせキムラスカに有利な和平を結ぶことが出来るから結んだ方がいい助言されたとも書かれていた。
 更に驚いたのが、旧街道使用許可・制限付きでのマルクト軍の入国許可・物資援助の要求と引換にキムラスカでは手に入らないレアメタルの贈与をもぎ取っていたことだ。
「これを……ルークが行ったというのか?」
「違うですの。ご主人様が全部交渉したですの。ルークさんの願いを叶えたんですの」
「ミュウよ、ご主人様の名前を聞かせて貰っても良いだろうか?」
「みゅ? ティアさんですの」
 皮肉にも襲撃犯が、ルークを守り願いを叶えるべく動いたというのか。もしかしたら、ルークは最強のカードを手に入れているのかもしれない。
「ミャーミャー」
 箱の中に飽きたのか箱をひっくり返して出て来た仔ライガが、クリムゾンの周囲をくんくん嗅ぎ回り餌を催促するかのごとく高級なズボンに爪を立てて強請っていた。
「僕もお腹が空いたのですの」
 お腹空いたの大合掌にクリムゾンは、傍に居た白光騎士に仔ライガと仔チーグルに餌を与えるように指示を出し、そのまま王宮へと走っていった。

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