小説 | ナノ

25.ティア恐喝する [ 26/72 ]


 一先ずジェイドの件は保留となったが、レアメタル贈与と名代変更は受け入れられた。
 ジェイドは、世界滅亡の危機に瀕しているという証拠資料があれば引き渡すとのこと。
 どこまでもジェイドを甘やかすピオニーは、本当に愚かな男である。
 あの腐れ眼鏡を庇うほどの価値はないだろうに、懐刀は名ばかりのピオニーの愛人なのだろうか。
 流石、マルクト! 皇帝自ら生産性のない同性愛に走るとは、民も浮かばれないだろう。
「ティアティア、声に出てる」
 ルークの指摘に、ハッと顔を上げ周りを見渡すとアスランを筆頭に顔を引きつらせるマルクト兵がいた。
「あら、やだ。うっかり本音と建前が逆になったわ」
 オホホホとお上品に笑って誤魔化そうとしたが、
「いっつもだろう」
とルークに突っ込まれた。
「公式の場では、そんなヘマしません」
 ちょっと気を抜いていたのだと主張してみるも、聞き流されてしまった。最近、ルークがちょっと強かになってきている。出会った頃のルークは、可愛かったのに…。
「あのさ、何で僕たちがあんたらの買い物に付き合わされなきゃならないわけ」
 不機嫌を隠すこともなく、殺気を撒き散らすシンクに対し私はケロッとした顔で言った。
「ルーク様に荷物持たせるわけには行かないでしょう。アリエッタには、ルーク様が購入されたお土産を運ぶお友達を借りるし居て貰わないと困る」
「荷物もちなら、マルクト兵に頼めば良いじゃないか!!」
 キャンキャンと吼えるシンクに、私は耳を塞ぎながらスルーした。逃げられないようにガッチリと特性譜術が施されたロープで捕獲してある。
「シンク、諦めが肝心だぞ。楽しんだ方が、心身ともに優しい」
 ポムッとシンクの肩を叩きながら諭すルークは、何気に酷いことを言ってくれる。
「シンク……総長よりティアの方が怖い。逆らう、ダメ」
 不細工な人形を握り締めながら『怖い』と訴えるアリエッタ。私、彼女に何もしていないのに何故?
「平気でアリエッタの友達を強奪しただろう」
「また、口から本音が出てる」
 ハァとルークが溜息を吐き、シンクがキャンキャンと子犬のように吼えている。
「強奪だなんて人聞き悪いこと言わないで頂戴。ちょお〜っとばかしお願いしただけじゃない」
「音素と殺気を纏ってすることじゃないと思うけど」
 半眼になりながら私を睨み上げるシンクに、それをフッと鼻で笑い飛ばした。
「彼らに私が上位であることを示しただけよ。仔ライガですら、私の殺気を物ともしないのにビビるなんて野生も当てにならないわね」
「仔ライガは、ティアに似て根性が図太いからです」
 ボソッと呟かれた言葉は私の耳には入らなかったけどれ、ルークはしっかり聞こえていたのか笑いを堪えるのに必死だった。
「愚兄からは、お小遣い程度しか渡されてないんでしょう。いっそうのこと神託の盾騎士団辞めてルーク様に雇って貰えば? 今より好条件で雇ってくれるわ。戻っても上層部の不祥事の尻拭いをしても、給与払われることはないわよ。キムラスカも王族誘拐事件でお布施カットしているだろうし」
「父上と母上が、怒り狂ってお布施全面カットを叔父上に要求してる頃だと思うぜ。シンクなら腕も立つし、参謀長を兼任しているだけあって頭の回転速いから一軍任せられそうだ。アリエッタの友達は機動力もある。ローテルロー橋大破後物価が跳ね上がっているから空を飛べる魔物に運んで貰えたら、それはそれで助かるな。なあ、二人ともこれを気に転職考えてみないか?」
 ニッコリと笑みを浮かべながら転職を勧めるルークに、シンクは絶句した。
「愚兄のお粗末な計画に付き合って馬鹿を見るのか、それともこの際華麗に転職して新たな人生を歩むか、どっちがいい?」
 聞いておきながらも、私はこんな優良物件を逃がすつもりはない。私の思惑が読めたのか、ダラダラと冷や汗を垂らしているシンク。
「アリエッタはそれで構わない、です」
「退職届出して教団からガッポリ退職金をせしめましょう。序に愚兄がアリエッタ達から巻き上げたお金も返して頂かないとね」
「師匠、お金持ってるのか? シンクやアリエッタたちの給料まで取ってたんだろう」
 素朴な疑問とばかりに首を傾げるルークに、私はニヤッと人の悪い笑みを浮かべた。
「モースの隠し部屋に横領した金が隠されているから、そこから払って貰えば良いのよ。部下の不始末は上司が拭うものよ」
 容赦の欠片もなく金を無心する気でいる私に、シンクは泣きたくなった。
 どっちに転んでも苦労が付き纏ってくるのかと思うと彼は一人絶望したのだった。

*prevhome#next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -