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27.カイツール軍港に到着しました [ 28/72 ]


 両国の国境に儲けられているカイツール軍港で事件は起きた。
「ここで死ぬ奴にそんなものはいらねぇよっ!」
 頭上から不穏な台詞が聞こえてきたかと思うと、建物から飛び降りてルーク目掛けて剣を振り回す馬鹿が一人。鮮血のアッシュと恥ずかしい二つ名の実力に見合わない地位に就いているルークのオリジナルである。
「「ルーク様、危ない!!」」
 アスランと同時だった。ルークを守ろうと動くが、当人に手で止められ動けない。
 ルークは、あっさりとアッシュの攻撃を避け呆れた顔で彼を見ていた。
 避けられたアッシュはと言うと、顔を真っ赤にして怒鳴り散らしていた。
「逃げるんじゃねぇ!!」
「馬鹿かお前。逃げたんじゃなくて、避けたんだっつーの」
 毒がふんだんに含まれたルークの突っ込みをニヤニヤと笑みを浮かべながら見ていたら、いきなりこっちを振り返って怒鳴られた。
「見てんじゃねーよ」
「ルーク様、殺って良いですか?」
 いい度胸だ。特務師団長がなんぼのもんじゃ、その喧嘩買ってやる!! とばかりに棍を構える私に対し、シンクが慌てて止めた。
「流石に検問所で殺人事件なんて起こしたら色々と不味いだろう!!」
「大丈夫よ。超振動で分解すれば証拠隠滅できるから。無問題?」
 アッシュも第七音素の素養があるので擬似超振動しようと思えば出来なくはない。
 ルークと共にタタル渓谷へ飛ばされた時は、運良く身体は再構築された(本当のティアは、その時点で死んでいたが)わけだが、必ずしもそれができるとは限らない。
 擬似振動がなくとも、シンクがいるしいざとなれば彼を盾にしつつ譜術でメッコメコに伸せば良いだけである。
「それしたら、ティアも再構築できずに分解されるぞ」
「私は、目的を達するまではどんな汚い手を使っても死なないから平気です」
 あっけらかんと言い放つと、ルークは物凄く微妙な顔で私を見た。
「お前ってそういう奴だよな」
「私は、いつだって慈愛が溢れていますから」
 胸を張ってそう断言すると、シンクが確かにそうだよねと頷いている。
「あんたの場合は、自愛でしょう」
 何とも失礼な言葉を貰った。イケテナイ2歳児にお仕置きが必要だろうか。
「俺を無視するなぁぁっ!」
「あら、まだ居たの」
 アッシュの怒声に、私は今気付いたと言わんばかりに返せば顔を真っ赤にして切り掛かってきた。
「顔が悪い、品がない、人望がない、金がない、ないない尽くしね。いっぺん死んでみる?」
 棍を喉元につきつけ動きを封じたまでは良かったのだが、分が悪いと判断したアッシュは体当たりして逃げた。
 純粋な力の差は歴然で軽く吹っ飛ばされる。たたらを踏みながら尻餅をつくことは免れたが、私の怒りは収まらない。
「テメェ、逃げんじゃねーぞゴルァァッ! 次会ったらアリエッタの友達の餌か仔ライガの餌にしてくれるわっ」
 アリエッタには、三人分の退団届けを提出するべくダアトへ向かって貰っている。今居ないのが惜しまれる。
 私の口の悪さにドン引きするルークと和平の使者ご一行に、シンクが神妙な顔してこう言った。「ティアの口の悪さは、ヴァン譲りなのかもしれない」と。

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