小説 | ナノ

24.無理難題吹っ掛ける [ 25/72 ]


 ピオニーの私室は、まごうことなく家畜部屋でした。
「ここは、俺の私室だから楽にして構わんぞ。二人とも気楽にしてくれ」
 家畜独特の臭いに顔を顰めていると、ブヒブヒと何故かブウサギがルークに向かって突進している。
「うわっ!? ちょっ、止めろってば!! 人の服を噛むなぁぁ」
 ブウサギに群がられているルークは、明らかに遊ばれている。殺気を出せばブウサギも近寄りはしないのに、と思いはしたものの口には出さなかった。
「陛下、ブウサギを止めて頂けませんか」
「可愛いから良いじゃないか」
 取敢えず飼い主にブウサギを何とかしろと言ってみるが、崩れた顔を浮かべてニマニマその光景を見ている奴は変態だ。
「そういう問題じゃありません。止めて下さらないなら私がやります。……畜生の躾は得意のではないのだけど、ルーク様から離れなさい。さもなくば丸焼きにするわよ」
 音素を纏わせると、ブウサギの体が面白いくらいに跳ねた。一斉にルークから離れる部屋の隅に身を寄せてプルプル震えている。
「俺のブウサギを苛めるなよ」
「苛めておりません。躾です。現に、ミュウや仔ライガは平然としているではありませんか」
 殺気を物ともせずルークの膝の上に陣取り、一生懸命身体をこすり付けている。ルークは、嫌がるわけでもなく彼らの好きなようにさせているが、あれが縄張り主張だと分かったらどうなるんだろう。
「俺のブウサギは繊細なんだ!!」
「それは、単に飼い主の欲目です。ペット談義をする為に、陛下との面会を望んだわけではありませんので本題に入らせて頂いても宜しいでしょうか?」
 私の言葉に、ピオニーの纏う空気が変わる。謁見の場では感じられなかったが、一国の王に相応しいオーラがあった。何故プライベートで出せて、謁見の場では出せないのか非常に理解に苦しむと同時に残念な男である。
「陛下、アクゼリュスは一刻を争うことにルーク様は心を痛めておいでです。そこで取急ぎキムラスカに『キムラスカ側の旧街道使用許可・制限付きでのマルクト軍の入国許可・物資援助』の三つを打診します。陛下には、これらに見合う見返りを用意して頂きたく存じます」
「見返りを用意すれば、その三つは確約されるのか?」
「見返りが魅力であれば」
 鬱葱と笑みを浮かべる私に対し、ピオニーは少しの沈黙の後、私の提案に是と答えた。まず第一段階はクリアした。
「名代変更、ジェイド・カーティスの身柄をキムラスカへ護送、レアメタルの贈与を要求します」
「おいおい、待ってくれ。ジェイドは俺の幼馴染だし、レアメタルはマルクト発展の為に必要不可欠な鉱物だ。おいそれと敵国に渡せるわけがないだろう」
 冗談だろうと顔を引きつらせるピオニーに、私は物凄く良い嘲笑(えがお)を浮かべて言った。
「そうやって、カーティス大佐を甘やかしていたと。単に陛下のせいで礼儀も知らない非常識軍人が出来上がってしまったと云うのですね」
 私の毒舌にルークもプッと噴出している。彼も同じことを思っていたのか。何だか意外である。
「カーティス大佐は、不敬のオンパレードだけでなく戦闘強要に王族捕縛と色々やらかしてますから。ルーク様が寛大でなければ即開戦もありえた話ですが、カーティス大佐にはその頭脳で世界が直面している危機をディストと共に当たって頂きます」
「世界が直面している危機とは何だ?」
 ジェイドの死を求めているわけではないと分かったピオニーは幾分冷静さを取り戻したようだ。
 『世界に直面している危機』に思いのほか簡単に釣れたのは嬉しい誤算だ。
「このままで行くと世界は滅びます」
「何を馬鹿な……」
「今、世界各地で多発してる瘴気が如実に示しているではありませんか」
「……」
 信じられないと言いたげなピオニーに対し、私は畳み掛けるように言葉を被せると黙った。
「2000年前、始祖ユリアは瘴気に侵された世界を救うべく外郭大地という新たな大地を作りパッセージリングで地上高くに上げました。そして、ユリアが住んでいた惑星本来の姿を魔界と呼び瘴気を外郭大地と本来の大地との間に閉じ込めたのです。アクゼリュスの瘴気は、外交大地の底を突き抜けてしまって漏れた瘴気です。ユリアが残した第七譜石は、ホドと共に崩落しました。しかし、私の兄は譜石を目にすることがあり、紙に書き写していた。世界滅亡に祖国に憎悪し、ホド崩落という大量虐殺の片棒を担ぐ要因となったレプリカを恨んだ兄は、人を愚かと断じ人類滅亡と同時に己はレプリカの世界で唯一のオリジナルになり君臨しようと考えている。――フォミクリーと超振動の施設で実験されていたのはヴァンデスデルカ・ムスト・フェンデ。先帝が、キムラスカに罪を擦り付けた。覚えがないとは言わせません」
「一体どこでそれを……いや、ファンデ家がまだ生きているとはな。ヴァンデスデルカの妹なら兄から話を聞いていてもおかしくはない。それで、マルクトを恨むのか?」
「そんな生産性のないことはしません。面倒臭い」
「ティア、最後のは思っていても口に出さない方が良いぞ」
 ドキッパリと心情を露吐したらルークに突っ込まれてしまった。失敗失敗。
「その話が本当なら、何故ダアトは動かない。導師は、知らないんじゃないのか?」
 ピオニーは、不愉快そうに眉を潜めている。尤もの指摘に私は小さく肩を竦めた。
「導師は存じ上げません。ダアトは今、モースとヴァンが二分しています。どちらも信を預けることは出来ません。また、導師は発言権も弱く本当に象徴でしかありません」
 お飾り導師に言ったところで無駄だと遠まわしに言えば、ルークは手で額を押さえているし、ピオニーは何とも言えない顔で無言を貫いている。
「選択を一つでも間違えれば滅亡します。要求を呑んで頂けますね」
 脅しにも近い私の要求をピオニーは、声を絞り出すように言った。
「……少し考えさせてくれ」
 色々と打ちひしがれた感が否めない姿ではあったが、私の知ったことではないのでそこには触れないでおいた。

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