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17.交渉しましょう [ 18/72 ]


 私達は無事艦橋に辿り着くことが出来たのだが、敵も馬鹿ではなく六神将の一人『妖獣のアリエッタ』がいた。
「妖獣のアリエッタ、及び神託の盾騎士に告ぎます。投降しなさい」
 棍を突きつけ投降を促すが、預言に凝り固まっている一般兵はすぐさま剣を振り上げ攻撃しようとしていた。
「待って!」
 それを止めたのは、アリエッタ本人で顔には出さなかったがちょっと意外だと思った。
「しかし、師団長……」
「殺しちゃダメ、です。イオン様を返してくれれば、ここから離れる…です」
 可愛いと言い難い人形をギューッ抱きしめながらボソボソと交換条件を提示するアリエッタに私は願ったり叶ったりなので二つ返事で返した。
「寧ろ連れて帰って下さい。キムラスカだけでなくマルクトからも抗議文が殺到していることでしょう。自治区の長が居ないとなれば、格好はつかないでしょうし」
 シレッとした顔でイオンを連れて帰れと言い放った私の言葉が信じられなかったのか、彼らはぽかんとアホ面を晒している。
「ティア殿、それでは和平が危ぶまれます」
 イオンが連れて行かれては和平に支障が出ると半泣きになっているマルコ中佐以下省略を一瞥し、私は米神を揉みながら現状を分かりやすく且つグサグサと抉るように嫌味交じりに説明した。
「今、キムラスカのダアトに対する心象はマルクトより悪い。神託の盾騎士が、ファブレ邸を襲撃し次期国王のルーク様を誘拐しています。犬猿の仲であるマルクトが、導師イオンを連れて和平を申し入れたところで、相手からしたら『馬鹿にしてるのか?』となるわけです。マルクトもタルタロス襲撃で甚大な被害を被り、中には死んだ方も恐らくいらっしゃるでしょう。和平の仲介役を導師イオンに頼み、当人からも形はどうであれ了承は取ってある事実の前に、何故タルタロス襲撃されなければならないのかと私がマルクトの皇帝なら思いますね。最新鋭の軍艦と聞きましたので、相当のお金を注ぎ込んでいるのでしょう。亡くなった方に対する慰謝料や破損した分を考えると腸が煮えくり返って、いっそうキムラスカと手を組んでダアトを解体させた方が有益でしょう」
 キムラスカがダアトを睨むきっかけを作ったのは私だが、敢えて名前は出さない。面倒臭いからだ。
 新たに知らされた新事実に顔面蒼白になっているアリエッタを気の毒に思ったのか、ルークが慰めている。
「ティアは、ああ言っているが本気じゃねーから。な、泣かなくてもお前が悪いんじゃねーんだから」
「ルーク様、私はいつだって全身全霊本気で行動してます」
 ルークのフォローを私の台詞で台無しにすると、大失態に対する厳罰を思い浮かべたのかアリエッタはついに本気泣してしまった。
「嗚呼、もうっ! ティアが、こいつを苛めるからマジ泣きしてんだぞ」
 女の子に泣かれるのは流石に困ったのか、ルークはブーブーと文句を言ってくる。
「ハイハイ、何とかします」
 泣かせておけば良いじゃないかと思わなくもなかったが、私は泣いているアリエッタに一つ提案をした。
「キムラスカのことはどうにもならないけれど、タルタロスのことなら揉消せるわ。貴女が、私に強力してくれると言うなら貴女に従う部下もお友達も助けてあげる」
 揉消す発言に顔を歪めているマルクト兵は放置し話を続けた。
「一連の騒動は、ダアトで軟禁されていた導師をカーティス大佐が誘拐したことが原因です。彼が、正方向で仲介役を依頼していれば少なくとも襲撃されることはなかったでしょう」
 そこまで言うと、マルクト兵の息を呑む音がした。
「しかし、タルタロスを襲撃し殺された仲間が浮かばれません」
「私達も神託の盾騎士を手に掛けていることを忘れてませんか?」
「……っ」
「どちらも突かれては困ることを抱えているという事です。して頂きたいことは二つ。まず一つ目、今すぐ貴女のお友達を大人しくさせ且つタルタロスを選挙している兵共々速やかに退去して下さい。二つ目、烈風のシンクと連絡を取り貴女と彼はグランコクマへ同行し事情を説明して頂きます。拒否された場合は、教団は解体されると思って下さい」
 そんな権限私にはないけどねー、と心の中で呟いておく。
「…………………………分かった、です。全部隊に撤収命令を。導師イオンが居たら保護して」
「ハッ、ですが……他の師団長達に何て報告すれば良いんでしょうか?」
 顔色の悪い神託の盾騎士が、アリエッタに問い掛けるが良い案が浮かばないのか彼女は口を噤んだまま無言を貫いている。
「アリエッタ師団長が、導師を保護し教団へ連れ帰ったから撤退すると言えば納得するでしょう。艦内には死霊使いが導師を探している頃でしょう。鉢合わせした際は、死なない程度の痛めつけても構いません」
「「「ええーーーっ!?」」」
 撲殺してよしと言わなかっただけ褒めて欲しい。驚嘆の嵐を軽くスルーしていると、ルークが疲れたような顔をしていた。
 神託の盾騎士は、アリエッタに一礼し撤収命令を伝えるべく出て行った。
「さて、マルコ中佐。軍部へ連絡して、現状報告といきましょうか。ルーク様、キムラスカへ良いお土産ができそうですよ」
 ウフフと花も綻ぶような笑みを浮かべながら、極めて底意地の悪いことを考えている私にマルクト兵だけでなくルークやアリエッタまでも怯えていた。
 唯一、平然としていたのはミュウだけたったりする。

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