小説 | ナノ

18.生存者116名 [ 19/72 ]


 タルタロスの生存者は、116名。乗車していたのが、140名と考えると決して少ない数ではない。
 マルコ中佐が軍部に無線連絡を入れた瞬間、高官からの叱責と言う名の怒声が響き渡ったのはつい先ほどのことである。
「まさか、中間報告すらしてないとは思いませんでした。流石、天才! 職務怠慢も群を抜く天才ですね」
「全然褒めてぬぇーし。近くを巡回している艦が、こっちに迎えに来てくれるだけでもありがたいぜ。でも、乗れるのか?」
 キラリと光る私の毒舌に、ルークの突っ込みが冴えた。うーん、突っ込みスキルを高めて将来漫才師になるつもりなだろうか? 似合わないのに…。
「さあ、全員は無理なのでは? ルーク様は、要人として迎えられるでしょう。私は罪人として捕縛され護送されるでしょうし、アリエッタは重要参考人という扱いで乗車は必須。後は、徒歩組と乗車組に別れることになるでしょうね」
「ティアが、罪人? どうして?」
 私が罪人なのか今ひとつ理解出来なかったアリエッタが、キョトンと目を丸くして首を傾げていた。
 彼女の質問にルークは、非常に困ったような顔をしながら私を指さして説明をした。
「ファブレを襲撃して俺を連れ出した張本人がティアなんだ」
「えっ!?」
「当人はキムラスカに戻って罪を償う気でいるし、色々反則的なことするが悪い奴じゃない。俺が、実家まで送るって言張ってるしさ」
「い、良いんですか?」
 事の大きさに処理しきれなくなったのか、目をグルグル回しているアリエッタに彼は小さな笑みを浮かべて頷いた。
「俺が、こうして無傷でいられるのもティアが体張ってくれたお陰だからな」
「ルーク様が、そう言うなら…いいです。私も彼女にママを助けて貰ったから、悪い人じゃないのは分かるです。弟とも会えるなんて思ってもみなかった、です」
 ポツリと呟かれたアリエッタの言葉に、覚えがあるのはライガクイーンのみで弟なんて私は知らない。人違いならぬ魔物違いじゃなかろうか。
 首を傾げていたら、ルークのフードからミャーッと仔ライガの鳴き声が聞こえてきた。
「お腹が、空いたって言ってるです」
「準備します。ルーク様も遅いですが、朝ごはんにしましょう」
 譜術で水を出し、ミュウにその辺に落ちている枯葉や枝を燃やさせた。野宿用に準備を揃えていた甲斐があったと自分を褒め称えたい。
 テキパキと遅い朝食の支度を進めていると、マルコ中佐が顔を引きつらせながら手元にある戦闘糧食を指差して問い掛けてきた。
「ティア殿、それは一体どこから出したのですか」
「食料庫から頂戴しました。腹が減っては戦は出来ぬと古人が残した格言があるじゃないですか」
「……」
「ルーク様を軟禁しておいて、食事も出さない――なんてこと言いませんよね?」
「………………………………………………………………………申し訳ありませんでした」
 明らかに窃盗だろうと突っ込みたいマルコ中佐の心情を抉るようにジェイドの不始末をネチネチと責めれば、彼は項垂れ謝罪だけを口にした。
 無能上司の尻拭いをこんなところでもする嵌めになろうとは、本当にお気の毒ではあるが同情はしない。
「ティア、ご飯出来たです」
「味は、微妙だな」
 戦闘糧食を微妙と称すルークに、私はそりゃそうだろうと苦笑いが浮かんだ。
 ルークの隣で物欲しそうに見ていた仔ライガが、ミャーミャーと鳴き声を上げて餌を強請っている。
「ダメですのー。お腹壊しちゃうですの」
 ミュウは、仔ライガの尻尾を引っ張りルークの戦闘糧食から引き剥がそうとしているが一回り大きな体の仔ライガに勝てるわけもなく振り回されている。
「こら、お前のご飯はこっち」
 首の皮を摘みぷらーんと目の前にぶら下げて叱るも、にゃーんと間抜けな鳴き声に私はガクッと肩を落とした。
「どうやって仔ライガにミルクを与えるんだ?」
「哺乳瓶があれば一番良いんですけど。そんな贅沢言ってられないですし、幸い脱脂綿とガーゼがあるので何とかします」
 割り箸に脱脂綿をはさみガーゼで巻いたものを人肌に温めたミルクに浸し、仔ライガの口元に持って行くとチューチューと吸い始めた。
「か、可愛い……」
「な、な、俺にもやらせてくれ」
 愛くるしい仔ライガの授乳姿にメロメロになっているアリエッタと、興味津々に食事そっちのけでやりたいと言い出すルーク。仔チーグルが、隣でギリギリと嫉妬の目を向けているのは見なかったことにしよう。
「まずは、ルーク様がご飯を召し上がってからですよ。その後でなら構いません」
「本当か!」
 嬉しそうな顔で猛烈な勢いでご飯を食べ始めるルークを見て、先ほどまでの緊張が一気に抜けた感じがした。

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