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16.マルクトに恩を売ろう [ 17/72 ]


 血臭が酷い。先に進むに連れてそれは酷くなる。タルタロスの甲板から外の様子を伺うと、うじゃうじゃとゴキブリのように這い出た神託の盾騎士があちらこちらに居た。
「結構厳しいですね」
 ルークを戦わせるわけにもいかないし、多勢に無勢で回復アイテムを沢山持っていても戦況は非常に厳しい。
「どうする?」
「恐らく、タルタロスの機関部は占領されているとみて間違いないでしょう。私だけでは無理です。道すがらにマルクト兵を助けて戦力を補強しましょう」
 連中は、イオン以外は全員殺すつもりで襲撃しにきている。ジェイドの性格を考えると、譜術や戦闘技術において個々の能力を重視しているだろう。その反面、回復やサポートに回るヒーラーの存在を軽視しているに違いない。
「……そうだな。助けられるなら助けてやりたい」
 鎮痛な面持ちのルークに、私は小さく笑みが零れた。人のことなのに、自分のことのように痛みを感じるルークに癒される。
「助けましょう。幸いにもエンゲーブでガッツリ仕入れたアイテムがありますしね」
 ポンとポケットを軽く叩き、パチンとウインクをして見せると漸く強張っていた緊張も解けたのかルークは笑みを浮かべた。


 私たちは、救助活動をしながら着々と護衛を増やした。現在、36人のマルクト兵と合流している。
 1チーム6人とし、譜術が得意な者を2名・剣術や体術が得意な者を3名、援護・回復役に1人と役割分担するように説明するとマルクト兵から質問が飛んだ。
「六人も必要ないと思うのですが……」
「貴方がたなら一般兵との戦闘なら余裕で勝てる実力はあるでしょう。ですが、相手が六神将だったら六人がかりでも厳しいと思います。腐っても実力だけはありますから、彼らは。それに、誰かが傷ついてもフォロー出来る人間が多いから全滅する危険性を低くしてくれます。体力が切れる前に必ずグミを使って下さい」
 手持ちのホーリーボトルとグミを配り、傷ついて倒れている仲間がいれば直ちに救助するようにルークの名前を借りて命令を下した。これぞ虎の威を借りる狐である。
「勝つのではなく、生きることを最優先して下さい。無理に戦う必要はありません。各小隊長は、己の部隊だけでなく近くの部隊と連携を取り任務に当たって下さい。タルタロスが停止したら即座に降りて逃げること。停止が合図とします。落ち合う場所は……マルコ中佐、ここから一番近い町はどこですか?」
「セントビナーが近いです」
「じゃあ、落ち合う場所はセントビナーで。解散」
 パンッと柏手を打つと、マルコ中佐率いる小隊のみ残り、後は仲間を助けるべく散り散りに別れていった。
 一連の流れを見ていたルークが、ぽかんとした顔で私を見ている。
「ルーク様、どうされましたか?」
「い、いや……ティア、指揮官の勉強でもしたのか?」
 嗚呼、なるほど。階級は下から数えた方が早い私が、命令しなれているように見えたらしい。そりゃ、RPGで戦争とかやりまくって経験が、こんなところで生かされているとは思いもよらないだろう。
 実際、ゲームではなく現実なのだから幾分慎重になる。
「兵法を習い応用しただけです。本来、作戦を考えるのは軍師の仕事なんですよ。神託の盾騎士団でいえば、烈風のシンクが軍師に相当します。彼は、参謀総長でもありますから。彼が、愚策を講じ遂行しようと考えたとは到底思えないのですが……」
「そうなのか? じゃあ一体誰が?」
「恐らく、モースかヴァンかどちらかだと思います。ただ、ヴァンは私の事があるので身動きが取れないはず。ならば、考えられるとすればモース。タルタロスを襲う動機はあります」
 キムラスカに足しげく通いマルクトとの戦争を仄めかしているだろう。まあ、ティアがファブレを襲撃した事実で、彼の進退も危ういだろうが知ったことではない。
「通常ルートで艦橋に向かうのは避け、丁度この上にあるアーチ状の甲板から行けそうなので、そのルートを使いましょう」
「何で行けるって分かったんだ?」
「探索した時に色々と見てましたから」
 まさか、逃亡ルートの確保のために見歩いていたとはルークも思うまい。シレッとした顔でルークの質問を華麗に交わし、艦橋を目指して私達は進んだ。

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