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12.王族捕縛事件 [ 13/72 ]


 チーグルの森を抜けた辺りで捕縛されるのは分かっていたが、一応忠告するべきだろうか。
 アニスが連れて来たマルクト兵に囲まれた私とルークは、何やら企んでいるジェイドを見やり真偽を問うた。
「これは、一体どういう事かしら?」
「そこの二人を捕らえなさい。正体不明の第七音素を放出していたのは彼らです」
「ジェイド、二人に乱暴なことは止めて下さい」
 ジェイドの捕縛命令にイオンも焦った表情を隠し切れずにいる。
「ご安心下さい。何も殺そうというわけではありません。二人が暴れなければの話ですが……」
 ジェイドの言葉を聞き、不安そうにイオンは私を見やる。彼の中でどれだけ私は暴れ馬なのだ。
 私は溜息を一つ吐き出し、不機嫌を隠そうともしないルークに声を掛けた。
「……貴方の身分を明らかにしても良いかしら?」
「構わないぜ」
 私の意図していることを察知したルークは、小さく頷き了解の意を示した。
「お待ち下さい。彼は、隣国の王族であられるルーク・フォン・ファブレ様です。確かに、私とルーク様との間に擬似超振動が起こりマルクトへと飛ばされました。しかし、それは不慮の事故です。また、キムラスカからルーク様の保護と私の捕縛依頼がグランコクマに届いているはずです」
 口調と態度を改めた私に一瞬ジェイドは目を見張ったものの、己の欲求を最優先した。本気で最低だ、コイツ。
 王族に対して臣下の礼すらしない軍人など初めて見た。相当甘やかされて育ったのだろう。
「そんな話聞いたこともないですねぇ。――連行せよ」
 ジェイドの命令に青ざめた顔で私達に縄を掛けるマルクト兵。下っ端の方が、余程状況というものを理解しているようにみえた。
 私達は、『不法侵入』という罪状で捕縛され森の入口に横付けされたタルタロスへと連行されたのだった。


 タルタロスの一室、それも客室とは言えない簡素な部屋に連れ込まれた。事情聴取とは名ばかりのジェイドの演説に辟易している。
 椅子を勧められたものの、私はルークの後ろに立ち座ることを良しとしなかった。
 そんな私を見てジェイドが冷やかすように言った。
「そうしていると、ティアはルークの護衛みたいですねぇ」
「……」
「おや、どうしたんです? 貴女が、何も言い返さないなんて明日は槍でも降るんでしょうか」
 ハハハハッと笑うジェイドに、無視を決め込んでいたルークが口を開いた。
「ティア、喋っていいぞ」
「ルーク様、発言の許可ありがとう御座います。カーティス大佐、私は罪人であると同時にルーク様の生家へ送り届けるまでの間は護衛として傍に置いて頂けることを了承して頂いております」
 私の言葉に引っかかりを覚えたイオンが首を傾げた。ジェイドは、何故私達の間に擬似超振動が起こったのか原因を聞こうとも、罪人だと分かりやすく言っているのに問い質そうともしないのに、やはりオリジナル・イオンのレプリカだけあって観察眼はそれなりにあるらしい。
「ティア、貴女は何かしたのですか?」
「私は、ファブレ邸にユリアの譜歌を使って進入し、ヴァン・グランツを亡き者にせんと襲撃したのですが、ルーク様の剣に遮られ擬似超振動を起こしマルクトまで飛ばされました。ファブレ公爵家によるマルクトへの敵対行動ではありません」
 イオンもまさか私が、そんな大それたことを仕出かしているとは思っても見なかったのか化石のように固まっている。
「ええ! それじゃあ、ティアって誘拐犯なの? きゃわぁーん、ルーク様怖かったですね。アニスちゃんが、守ってあげますぅ
 アニスは、媚を売るような甘ったるい声音でルークに擦り寄っている。私は、すかさずアニスを引っぺがし床に転がした。
「ちょっ……何するのよ!」
「不敬ですよ。アニス・タトリン奏長」
「はぁ? 罪人のアンタに言われたくないわよ。ね、ルーク様?」
「お前、ティアの話聞いてなかったのな。ティアは、俺の護衛だ。こいつを侮辱する場合、主の俺を侮辱していると思え」
 ルークの言葉に、呆気に取られているアニス。私も、まさかそんなことを言われるとは思わずマジマジと彼の顔を見てしまった。
「なっ、何だよ……」
「ありがとう御座います」
 たじろぐルークに礼を述べると、彼は頬を赤く染めてソッポ向いてしまった。これが、俗に言うツンデレと言う奴か。意外と男でもイケルもんだ。
「大佐、ティアの言うとおりです。彼に敵意は感じません」
「……まあ、そのようですね。温室育ちのようですから世界情勢には疎いようですし」
「カーティス大佐こそ世界情勢には疎くていらっしゃるようですね。ルーク様を捕縛するくらいですもの」
「ティア……」
 諌めたいのは山々なのだろうが、何か言えば百倍に返ってくることを学習したイオンは、名前を呼ぶだけに留めていた。
「大佐、ここは協力をお願いしちゃいませんかぁ?」
 良いこと思いついたと言わんばかりのアニスに、ジェイドはニヤッと嫌な笑みを浮かべた。
「我々は、マルクト帝国皇帝ピオニー九世陛下の勅命によってキムラスカ王国に向かっています」
「ジェイド、彼らは関係ありません」
「彼らがいれば、スムーズに行くと思いませんかイオン様」
「そうですよぉ〜。アニスちゃん、ルーク様と一緒に旅したいですぅ」
 イオンの制止も効力はなく、ジェイドもアニスも言いたい放題だ。大体、勅命を無関係な第三者に聞かせようとしている時点でアウトだ。勅命をなめているとしか言いようがない。
「和平ですか」
「おや、どうしてそう思われるのです?」
 眼鏡を押し上げ品定めをしてくるジェイドに、私はイオンを見やり完結に述べた。
「平和の象徴である導師イオンが同行していてキムラスカへ赴くというなら自ずと答えは出ます」
「ティアの言うお通り、私達は和平に向けて動いています。これから貴女方を解放します。軍事機密に関わる場所以外は全て立入りを許可しましょう。まず私達を知って下さい。その上で信じられると思えたら力を貸して欲しいのです。戦争を起こさせないために」
 一見まともなことを言っているように見えるが、ジェイドは詳しい話も力を貸さなかった場合の待遇を何一つ伝えていない。
「協力して欲しいなら、詳しい話をするべきだろう」
 眉間に深い皺を刻んだルークの指摘に、ジェイドは平然とした顔で脅してきた。
「説明してなおご協力頂けない場合、貴方たちを軟禁しなければなりません」
「はぁ? ふざけんなよっ」
「事は、国家機密です。ですから、その前に決心を促しているのですよ」
 何とも勝手な言い分である。こんなのが和平の使者だなんて、一体どういう基準で選んだのかピオニー九世に抗議文を送りつけて問い質したいところである。
「どうか宜しくお願いします」
 頭も下げないジェイドに、私の怒りは頂点に達した。
「ミュウ、非常識眼鏡を丸焼きにして頂戴」
「はいですの! ミュウファイヤァァァアッ」
 気合の入った可愛い掛け声と共に繰り出された炎は、ジェイドに襲い掛かる。
 しかし、腐っても軍人。あっさりと交わされてしまった。残念だ。
「危ないじゃないですか」
「肉片も残さず灰にして差上げますよ」
 ジリジリと距離を詰める私に対し、ジェイドは後退している。
「考える時間も必要でしょう。決心が決まりましたら、そこにいる兵に声を掛けて下さい」
 彼は、それだけ言うとさっさと退出してしまった。残されたイオンは、ルークに一礼するとジェイドの後を追いかけるように出て行ってしまった。
 アニスもそれについて行くかと思いきや、彼女は未だこの部屋に残っている。
「詳しい話は、協力を取付けた時に大佐からお話されると思いますぅ。まずは、艦内を探索してみませんか? アニスちゃんが、隅々まで案内しちゃいますよぉ
 職務放棄してまでルークにモーションを掛けるアニスに、私はハァと溜息を漏らした。

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