小説 | ナノ

4.まるっとマルクト [ 5/72 ]


 エンゲーブに到着し、思わずホッと一息吐いてしまったのはご愛嬌。途中でタルタロスに追掛けられたコソ泥が、橋を爆破したりしてアイタタタな現場を目撃したりしたが、私には関係ないので頭の片隅に追いやった。
「のどかな町ですね」
 第一産業の町なだけあって家畜臭が凄い。某皇帝の私室もやっぱり臭いんだろうかと失礼なことを考えていたら、ルークが林檎を物欲しそうに見ていた。
 そう云えば、食事らしい食事を取っていない。お腹が減っても仕方がないだろう。
「ルーク様、林檎食べませんか?」
 ルークが返事をする前に、彼のお腹がグーッと鳴った。笑っちゃいけないと思いつつも、彼には隠しきれなかったみたいで顔を真っ赤にして怒鳴られた。
「笑うな!」
「済みません。おじさん、林檎二つ下さい」
「あいよ。10ガルドだ」
 魔物から詐取したガルドで支払い一つをルークに手渡す。美味しそうに齧り付く彼を見た後、私も林檎に齧り付いた。
「んー、甘酸っぱくて美味しい
「あははは、エンゲーブ産の林檎だから美味いのは当たり前さ。それにしても、あんた達旅人かい?」
「ええ、これから仕事でキムラスカへ行くんです。ここに来る途中、ローテルロー橋が落ちてしまって困っているんですよ」
「そりゃ難儀だね。グランコクマからキムラスカ行きの船が出ているはずだ」
「おじさん、ありがとう。そのルートで行ってみるわ」
 私は、ニコニコと笑いながら世間話を終えるとこれからについて頭をフル回転させた。
 グランコクマにあるキムラスカ領事館でルークの旅券を発行してもらう。私は、罪人なので護送になるだろう。ルークの護衛もそこで付くだろうから、彼が傷つくことはない。
「ルーク様の名前で、キムラスカへ鳩を飛ばして頂けませんか? グランコクマのキムラスカ領事館で保護と私の護送を依頼しておけば、到着する頃には情報が届いて旅券や護衛が揃った状態でキムラスカに戻れます」
「そうだな。ところで、ティア」
「はい」
 眉間に皺を寄せながら名前を呼ばれ、私は何か気に触るようなことでもしたかなと首を傾げつつも返事をかえせば、意外なことを云われた。
「様付けはするな。それと敬語もなしだ」
「それは、立場を考慮しての判断ですか?」
 敵国の貴族であることが分からないようにする為かと暗に聞けば、彼はそうだと頷いた。
「……分かった。公の場では無理だからね」
 そう釘を刺すと、にっこりと年相応の笑みを浮かべて笑った。
「宿を取る前に買い物したいのだけど良い?」
「構わねーけど。何買うんだ?」
「旅に必要なものよ」
 私は、ルークを連れ道具屋へ向かった。ルークに渡したナイフを返してもらい、高価なペンダントと一緒に売り飛ばした。配給品なので本来なら教団に返却しなければならないのだが、この際罪状が一つ増えたところで痛くも痒くもない。
「おい、ティア!」
「何?」
「それ、大切なもんじゃねーのかよ?」
 ペンダントを掴んで怒るルークに、私はケロッとした顔で宣った。
「嗚呼、良いのよ。お母様の形見らしいけど思い入れがあるわけでもないし。おじさん、全部で幾らになるかしら?」
「ナイフは二束三文にもならないが、このペンダントは結構良いものだ。そうだなぁ、30万ガルドでどうだい?」
「安いわ。そのネックレス、フェンデ家の家紋が入っているのよ。ホドが崩落して二度と手に入らないレア中のレアなんだから!」
「本当かい?」
「ええ、本当よ。鑑定所に持って行ってみたらどう?」
「むむむっ………………よし、50万ガルドなら良いだろう」
 もう一声と言いたいが、売れなかったら困る。50万ガルドあれば、キムラスカに戻るだけなら十分な金額だろう。
「それで良いわ」
 私は、ルークからペンダントを奪い返しサクサクとお金に換金したのだった。
 ついでにグミやボトル・薬草類もしっかり購入するのを忘れない。
「買いすぎだろう!!」
と、ルークに怒られたのは言うまでもなかった。

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