小説 | ナノ

3.旅は道連れ世は情け? [ 4/72 ]


 街道に出た私達は、立ち往生している馬車と出会った。
「すみません。馬車に乗せて頂きたいのですが」
 声を掛けると、男は面白いくらいに驚いた。お化けにでも遭ったかのような反応だ。
「な、何だ人か」
 あからさまにホッとした顔をする男に、どうしたものかと尋ねると彼はこの辺りの魔物に襲われたらしい。
「乗せてやりたいのは山々だが、馬の怪我が酷いんだ。薬もないし、治そうにも治せねぇ。そんなわけだ。悪いな」
 確か辻馬車に乗るのに、相当ぼったくられティアのネックレスを手放した記憶がある。
 しかし、現実は馬車に乗れないのはそれはそれで痛い話だ。
「あの、私で良ければ馬の怪我を治しましょうか」
「あんたがかい?」
「私は、第七音譜術士です」
「そりゃ助かる!!」
「その代わり、私達を一番近い村まで乗せて欲しいのだけど……」
「嗚呼、治してくれるならタダで乗せてやるよ」
 男は、嬉々として私の申し出を二つ返事で承諾した。
 私は、ティアの記憶を漁り傷ついた馬にメディテーションを掛けてみた。
 酷かった傷は、跡形もなく消え幾分元気を取り戻したかのように見えホッと息を吐く。
 第七音譜術士と宣言したは良いが、使えないかったら恰好がつかない。
 私たちは、荷台の後ろに乗せてもらい寛いでいた。
「メディテーション使えるんだな」
「初級なので、第七音素の素養があれば訓練次第で出来ます。私の場合、どちらかと言うと体術に趣を置いているせいか初級しか使えないんです」
 下手に突っ込まれないように誤魔化すと、彼は今までの行動を振り返りあっさりと納得した。
「村に着いたら、旅の装備を揃えましょう。野宿では、身体は休まりませんし」
「そうだな。ティアは、随分と旅に慣れてるんだな」
「任務で野宿することが多かったので、その時の経験が生かされたのでしょう」
 はい、嘘です。足はマメだらけで痛いし、硬い地面で寝たせいか体の節々が悲鳴を上げている。ティアは、野宿するような任務など就いた事がないのだろう。
 現代で培ったアウトドアの経験が、こんなところで役立つとは思わなかった。
「ルーク様、歩き続けてお疲れでしょう。少し、横になられては如何ですか?」
 ポンポンと膝を叩けば、物凄く微妙な顔をされてしまった。乙女の膝枕が気に食わんと言うのだろうか。
「……別にこのままでいいし」
「そうですか? 横になられるときはお声掛け下さい。膝をお貸しします」
「……ハァ」
 大きな溜息に私は首を傾げつつも、手持ち無沙汰になったので途中で拾った木の枝を取り出しナイフで削り始めた。
「何してんだ?」
「簪を作ってます」
「かんざし?」
 聞いたことがない言葉にルークは、キョトンと幼い顔をして私を見上げた。
「髪を纏める道具のことです。馴染みはないかもしれませんね」
「どうやって使うんだ?」
 程よく細くなった木の棒をシゲシゲと眺めている。鑢でなだらかに出来れば最高なのだが、流石にそんなものはないので断念する。
「髪を纏めて、適度な輪っかを作りぐるぐると髪を巻き最後は先ほどの棒を差して外れないように固定すれば完成です」
 纏まった髪を見せると、拍手が起こった。
「俺もやってみたい!」
 まさかそんな言葉を聞くことになろうとは思ってもみず、簪は男の子はしないのだと教えるべきかどうか迷ったものの、まあ良いかと簪の仕方を伝授したのだった。

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