小説 | ナノ

2.戦わずして勝つ、それが鉄則です。 [ 3/72 ]


 日が昇り私は、ルークを起こした後これからの事を手短に話した。
「ルーク様、お屋敷まではこの身に代えてもお守り致します。ですが、私は残念なことにとても弱いのです。ルーク様、身に危険を感じた時はご自身を守って頂けますでしょうか? 出来るだけそのような状況を作らないようにはします。力不足で本当に申し訳ありません」
 再び土下座すると、怒られた。何故だ?
「土下座すんなって言ってんだろ! 自分の身くらい自分で守るし、危なくなったらお前を盾にする。だから謝るな」
「ルーク様……ありがとう御座います。せめてこれをお持ち下さい」
 ルークに手渡したのは、教団支給のナイフとグミなどが入った道具袋だ。
 中身が気になったのか開けて確認したルークは、私と道具袋を見比べて驚いている。
「ルーク様、不本意ではありますがこれからは私との二人旅になります。片方だけが必需品を持ち歩いていて、万が一逸れたりしてしまった時にグミなどが手元になかったら回復も出来ず最悪命に関わる事になりかねません。持ち合わせがなくて申し訳ありませんが、ルーク様がお使い下さい。町に着きましたら装備を整えましょう」
「お前の分は、ちゃんとあるんだな?」
 以外に鋭いお坊ちゃまだ。私は、日本人特有の曖昧な微笑を浮かべ無言を貫いた。
 彼は、それを肯定と取ったようでそれ以上の文句は出てこなかった。
 ここから町まで歩くとなると、一体どれくらい掛かるのかと考えたものの、答えが出るわけもなく私はルークの前を歩き先導した。
 木陰が多いのか、日が燦々と降り注いでいる割には涼しく魔物さえでなければ良いハイキングコースと云えるだろう。
 茂みに入って直ぐ、猪っぽい魔物が襲い掛かってきた。
「ルーク様、木刀をお貸し下さい」
 ルークの手から木刀を奪うと、ズドドドッと突進してくる魔物に向かってスイングした。
「うぉぉおりゃあああっ!」
 身体を捻り渾身の力を込めて振り切ると、魔物はブギューッと変な奇声を上げて吹っ飛んだ。チャリンチャリーンとガルドが落ちる音がした。
「フッ、他愛もない。あ、ありがとう御座いました」
 ルークに木刀を返そうと振り向くと、またまた驚かれた。魔物と言っても、大人サイズ豚くらいの大きさである。体重にして成人女性くらいの重さしかないのだ。なぎ払うくらい出来ても何らおかしくないだろうに。
「突っ込みどころ満載なんだが、どこから突っ込んで良いか分からねぇ」
「瑣末なことを気にしていたら剥げますよ」
 禿げの兆候が見えるオリジナルを思わず浮かべてしまい真剣な顔でルークを諭すと怒鳴り返された。
「禿げぬぇーよっ!! 大体、木刀はあんな使い方するもんじゃねーだろう」
「剣を扱った事がありませんので、木刀本来の使い方なんて知りません。身を守れれば、どんな使い方だって良いんです。ルーク様、どんな手を使っても生きた人間が勝組みです。私は弱いですから、魔物と真っ向から勝負しようなんて思っちゃいけません。基本、『魔物を見たら逃げろ。逃げられない時は怪我しない程度に頑張ろう』です。殺さなくても生きてりゃ良いんです。それが鉄則ですよ」
 魔物が落としたガルドを拾いながら堂々と宣うと、目をパチクリと瞬かせムムッと考え込んでいる。よし後一押しで丸め込めるぞ。
「戦わずして勝つ――兵法の基本です」
「そうなのか」
 あっさり信じた。うーん、嘘ではないがゲームで培った俄か兵法に突っ込まれでもしたらバレるな。
「日が暮れる前に、町に辿り着きたいです。さあ、参りましょう」
 それから、私は出くわす敵を蹴り飛ばしたり殴り飛ばしたり譜歌で眠らせたりしつつ、しっかりガルドやアイテムを詐取して街道まで出ることが出来たのだった。

*prevhome#next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -