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46,襲撃犯を糾弾してみる [ 47/48 ]


 ティアに引きずられるようにチーグルの森にやってきたルルです。
 私を盾にし戦おうとするティアを魔物諸共譜銃の餌食にしたこと幾数回。何故生きているのか不思議なくらい生命力溢れる図太い女だった。
「ちょっとルーク、巻き込まないでって何回言ったら分かるの!」
「周りを見て戦えと何度言えばその足りない頭で理解するんだ?」
 嘲るように言い返せば、キーッと甲高い奇声を上げて怒り出す。
 それを無視して森の奥へと進むと、魔物がエリクシルを囲み襲い掛かろうとしていた。
「イオン様!? ルーク、何ボーッとしてるの!! 助けるわよ」
 そう言う割には、一歩も動こうとしない。助けずとも、ダアト式譜術で何とかするだろうにと思っていたら、案の定嬉々とした顔で大技ぶっ放していた。
 エリクシルは、私の姿を見つけた瞬間ガクッと膝をつき病弱な振りをしている。
 あくまで病弱を押し通そうとする彼に、私はハァと大きな溜息を吐くと初対面を装い声を掛けた。
「大丈夫ですか?」
「ありがとう御座います」
 エリクシルに手を貸し立ち上がらせていると、空気が読めない女ことティアが口を挟んできた。
「イオン様、ご無事で何よりです」
「貴女のお名前を聞かせて頂けますか?」
 エリクシルは、満面の笑みを浮かべティアをスルーし私に名前を聞いてきた。何気に酷いヤツである。
「彼は、ルーク。私は、モース大詠師が旗本情報部第一小隊所属ティア・グランツ響長であります」
「妹が、兄を殺そうとするのか。世も末だな」
「貴方は、黙ってて」
 初めて聞いたぞ、その肩書き。半眼でティアを睨んでいると、エリクシルは嘲るような笑みを浮かべて言った。
「嗚呼、貴女があの有名なティアでしたか」
 ティアは、何を思ったのか誇らしげな顔をしている。絶対彼女が考えているようなことではないのに、愉快な思考回路に私は奇妙なものを見るような目で見てしまった。
「人の話を聞かない。命令に従わない。何かある毎に主席総長やユリアの子孫の肩書きを持ち出すダメ軍人。幾度の解雇通知にも応じない傲慢女が目の前に現れるとは思っても見ませんでしたよ」
と黒い笑顔で宣ったエリクシルに、ティアの顔が強張った。毒舌は健在していて何よりだ。
「私は、ルーク・フォン・ファブレだ。導師が、何故一人でここへ? 弱いとはいえ、森には魔物がいる。危険だ」
「エンゲーブの犯人が、ローレライ教団が聖獣として認めているチーグルだったので真相を確かめるために森に入ったのです」
 一見当たり障りの無い回答に聞こえるが、教団にひいては導師の地位にいる彼に迷惑を掛けたチーグルに制裁を加える気だ。
 殲滅させるかどうかは、事の次第によりけりなのだろう。
「ところで、何故ルーク殿と一兵卒の貴女が一緒に居るんですか?」
 その理由を知っているくせに、と思ったものの初対面なら聞いて当然か。
「申し訳ありません。私事のためお話できません」
 最高権力者を前にして言ってしまえるティアの無知さに、よく生きてこられたもんだと感心した。これが、キムラスカだったら即解雇ないしは不敬で牢屋行き決定だ。
「ティア・グランツ、私はダアトの最高責任者であり貴女の上司です。その私が、話せと言っているのです。それとも隠し立てするようなことを仕出かした後なのですか?」
「いえ、そのようなことは……」
「なら、話せますよね」
 ドス黒いオーラを放ちながら脅すエリクシルにティアの顔色は悪い。
「……」
「そこの襲撃犯が、ユリアの譜歌を歌い私の家に忍び込み主席総長殿を殺害しようとしたんですよ。止めようとしたら擬似超振動を起こし現在に至ると」
 無言になったティアを一瞥し、私が彼女の代わりに端的に説明したら食って掛かられた。
「なっ! 襲撃したんじゃないって言ったでしょう!! 私が狙ったのはヴァンだけよ」
「そのような戯言が通じるはずないでしょう。貴女が起こした行動が、キムラスカへの敵対行動と取られているでしょうね」
「そんなつもりじゃ……」
「言い訳は結構。ルーク殿、我が下僕の不始末、本当に申し訳ない」
 深々と頭を下げるエリクシルに、私はティアの身柄引き渡しを要求した。それに対し、二つ返事で了承し一切の援護もしないと断言した。
「ダアトの膿みを一掃できる口実ができて清清しい気分ですよ」
 ウフフと背後に花を咲かせながら鬼畜なことを宣うエリクシルに、最早苦笑しか浮かばない。
 ティアはと言うと、罪の重さを理解していないのか不当だと喚いている。
「おい、あれチーグルじゃないか?」
 林檎を抱えたチーグルが、私達の前を横切ったのを機にティア虐めは一旦お開きとなった。

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