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47.害獣チーグルに導師ブチ切れる [ 48/48 ]


 導師が平和の象徴と誰が言い出したのだろう。
「あー……導師、気持ちは分かりますがそれ以上は動物虐待になりますよ」
「害獣を今この場で殲滅しておかないと後々問題が出てきては困ります」
 ハハハッと高笑いするエリクシルに、私はあちゃーっと額に手を当て空を仰視した。
 チーグルが燃やした北の森は、ライガが縄張りにしていた土地である。1匹の仔チーグルが火を噴く練習をしたせいで森の大半が燃えてしまった。
 そこに生息していた多くのライガを含む動物達は焼け死んだという。
 嫁の家族を焼き殺された挙句、被害者に対する申し訳なさなど皆無で、己の良い様に情報操作し利用しようとした魂胆に激怒したエリクシルの気持ちも分かる。
 分かるのだが、導師としての立場で動いている以上は、過激な言動行動は謹んで欲しい。
「導師、気持ちは分かるが彼らを殲滅したところで森や亡くなった動物達が還って来るわけではない」
「そうですね。ですが、このままでは被害者であるライガが住処を追われてしまいます」
「早かれ遅かれ人の手が入るのは時間の問題ですからね。狡猾な害獣の策略に乗せられるのは業腹ですが、私の友を悲しませるわけにはいきません。交渉しましょう」
 フゥと溜息を一つ漏らし、エリクシルにボコボコにされた長老チーグルに声を掛けた。
「ライガクイーンと交渉します。お前達は、交渉の結果に黙って従いなさい。良いですね?」
「ミュミュ……致し方がない。その条件を飲もう」
 エリクシルに散々痛めつけられたというのに相変わらずの上から目線。目の前の害獣は、人を苛立たせる天才かもしれない。
「この者が、北の森を焼いた張本人だ。通訳として連れて行くがよい」
「……加害者を通訳にする馬鹿がどこにいるんだ」
「知能は高いと言えど、精々人の子程度です。理解しろと言う方が酷でしょう」
 青筋を浮かべ今にも秘奥義を発動しかねないエリクシルに、私はこんなところでオーバーリミッツしないでねと釘を刺すと、彼は柄悪くチッと舌打ちをした。
「ルーク、そんな言い方酷いと思わないの! チーグルに謝りなさい」
 チーグルの可愛らしさにメロメロになっていたティアが、私の発言を暴言と捉え文句を言ってくる。
 エリクシルの顔が、それはもう怖ろしいことになっているのだが敢えて気付かなかったことにしようとスルーしたら耳元でキャンキャン吼えられた。
「ちょっと聞いてるの!? 貴方、本当その態度どうにかしないと痛い目を見るわよ!」
「黙れティア・グランツ。貴女の金きり声は、聞いていて不愉快なんです。静かにして下さい」
 エリクシルは、ドスッと正拳をティアの腹に叩き込み、崩れ落ちた身体を容赦なく蹴り飛ばした。
 呆気なく失神したティアに対し、毒を吐いていた。
「気絶した相手に言っても無駄だと思いますが」
「嗚呼、そうですね。つい、鬱憤が堪ってしまって吐き出さないとやってられないんですよ」
 いい笑顔で宣うエリクシルを見て、あの曲者揃いの連中を抑えるにはいい性格をしてないとやってられないのだろう。
「五月蝿いのが寝ている間に、さっさと用事を済ませてしまいましょう。交渉中に乱入されて破談になったら、それこそ目が当てられませんから」
「そうですね。じゃあ、行きましょうか」
 エリクシルは、そう言うと長老の頭を鷲掴み道具袋の中に押し込んだ。
 足元に群がるチーグルたちを蹴り飛ばす姿に、目の前の彼は平和の象徴ではなく悪魔の象徴と言い変えたほうがしっくりくると溜息をつかずにはいられなかった。

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