小説 | ナノ

45.導師の失踪 [ 46/48 ]


 泥棒疑惑が晴れた私は、そのまま村長の家に泊まることとなった。
 何故か、当然のようにティアも居座り同室で寝ている。ティアが盗みを働いたかどうかは定かではないが、私と少なからず関係があると判断した村長は、ティアの罪を咎めず放置した。
 関わりたくないのがありありと手に取るように分かるのだが、出来れば拘束しておいて欲しかったと思うのは私だけだろうか。
 夜が明けても、グースカと暢気に眠れるティアを一瞥した後、私は身なりを整え部屋を後にした。
 早朝から仕事に精を出す町民に挨拶を交わしていると、エリクシルが森に入っていくのを見て首を傾げた。
「何で導師が一人で森に入っているんだ? 導師守役は何をしているんだ」
 キムラスカでは考えられない状況に、自然と眉間に深い皺が刻まれる。
「ルーク!! 勝手に出歩かないでよ。探したじゃない」
 キンキンと耳障りな甲高い声は、虫の居所の悪い私の神経を逆撫でる。
「私が、どこで何をしようが貴様には関係ないことだろう。襲撃犯」
「失礼ね!! 私は、襲撃なんてしてないわ。大体、飛ばされたのはルークが悪いのよ。私のせいにしないで頂戴!」
 ルークも悪いからルークが悪いに、数日で脳内変換してしまえるティアの思考に眩暈がする。
 人語が通じない相手と喋ることは精神的に負荷が掛かるという事をこの数日で嫌というほど思い知った。
 私は無視が一番だと言い聞かせティアをシカトすると、彼女は私の腕を掴んだかと思うとエリクシルが消えた森へと引きずっていく。
「放せ襲撃犯! どこへ連れて行くつもりだ」
「イオン様を追掛けるに決まってるでしょう」
「は?」
「グズグズしないで! 行くわよ」
 何言っているんだコイツ、と私だけでなく近くを通りかかった村人もティアを見ていた。
「何故?」
「貴方が言ったんでしょう。一人で森に入ったって。森は、魔物がいっぱいいて危険なのよ。イオン様に何かあったら大変じゃない」
 馬鹿にしたように宣うティアに、私はこの場で射殺したら不味いかな? と不謹慎にも考えてしまった。
 手が、譜銃に伸びたのは致し方が無いだろう。
「その危険な森に私が何故行く必要がある? 王族の私に何かあれば大変なことになる。導師には彼を守る守役が居るだろう。それに、マルクトの軍人に導師の保護を頼めば済むことを何故わざわざ私がしなければならない」
「あなた馬鹿? 本当に傲慢ね。その性格直さないと後で痛い目見るわよ」
 ここまで人を虚仮にした女は初めてだ。言い返せないと分かると罵る言葉が飛び出てくるティアに、私は森の中で殺してやろうかと明確な殺意を抱いた。
「さあ、行くわよ」
 ティアは、有無を言わさず森へと連れ出した。村人が、真っ青な顔で村長の家へすっ飛んで行ったから今の話は伝わるだろう。
 森へ入ったエリクシルは、自衛するだけの力はあるし何も心配はしていない。
「……どうしてくれようか」
 気持ち悪い髭ことヴァンだけでもムカつくことこの上ないのに、ヤツの妹も彼と比較できないくらい残念な女だった。
 いや、ある意味おのれの正義を振りかざし暴論を推し進めようとする辺りティアの方が性質が悪いかもしれない。
「どちらにせよ墓場送りになる運命には変わりないか」
 この手を汚すまでもなく、ガイたちが合流すればティアは血祭りに上げられるだろう。
 精々短い命を楽しめばいい。私は、クツリと暗い笑みを浮かべたのだった。

*prevhome#next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -