小説 | ナノ

44.あいつとわたしは無関係 [ 45/48 ]


 エリクシルと別れた私は、道具屋へ行き身の回りの物を売り捌いた。ここから、キムラスカへ帰るとなると時間もお金も掛かるだろう。着の身着のままで連れて来られた為、お金は一切持っていなかった。
 幸い、服の装飾は全て純金製だった為いい金になった。旅に適した服と靴、回復薬グミ等その他諸々を購入し、さあ宿へ向かうぞと歩いた先で人だかりが出来ていた。
「ちょっと!! 私は、泥棒じゃないわっ! 失礼なこと言わないで」
「嘘吐け! あんた、うちの林檎を持ってたじゃねーか」
「だから落ちていたから拾ったのよ」
「だったら届ければ良いだろう」
「どこに届けたら良いのか分からなかったのよ」
「それで食べたってのか!」
 ギャイギャイと言い争う男と女。女の方には、見覚えがあった。
 私が、スプラッシュで気絶させて置き去りにした襲撃犯だ。
 関わりたくない。その一心で素通りを決めた私は、足早にその場を立ち去ろうとした。
 それが不味かったのか、人とぶつかってしまいフードが落ちてしまったのだ。
「ルーク!! ちょっと、助けなさいよっ」
「こいつも仲間か!? 捕まえろ」
 一斉に飛び掛られては、私も抵抗すら出来ない。護身術程度しか嗜んでいない武術が、役に立つはずもなくあっさりと捕縛されてしまった。
「村長のところへ突き出そう。丁度マルクトのお偉いさんも来ているって話だ。引き渡そうぜ」
 抵抗しても彼らの怒りを増徴させるだけと分かっているが、こんなところでマルクトの軍人と鉢合わせることになろうとはティア・グランツは疫病神だ。
 私とティアは、村長の前に言葉どおり突き出された。
「何事だい。今は、取り込み中だよ」
「泥棒を捕まえたんだ」
 不愉快だと言わんばかりに睨んでくる男に対し、青い軍服を着た男が眉を顰めて私とティアを眺めていた。
「泥棒というのは、どちらのことを言っているのです」
「両方だよ。男は、その女の仲間なんだ」
「少なくとも、彼は関係ないでしょう。お名前を聞かせて頂けますか?」
 ニッコリと胡散臭い笑みを浮かべる軍人に、私は下手に隠すよりは明かした方がいいと判断し名を告げようとしたら邪魔が入った。
「ル…「ルーク!!」」
 空気読めないティアを睨んでも許されると思う。
「私は、ルーク・フォ「彼は、ルーク。 私はティアよ」」
 悉く、人の邪魔をする。譜術をぶちかましたい。私の怒り具合が分かったのかは不明だが、彼は大きな溜息を吐いて言った。
「貴女に聞いたわけではないのですがね。まあ、良いでしょう。私は、ジェイド・カーティス大佐です。以後、お見知りおきを。ルーク様」
 やっぱり彼は気付いたようだ。略式とは言え臣下の礼を取るジェイドに私は鷹揚に頷いた。
 私が、キムラスカの王族だという事に。赤毛碧眼という特徴的な容姿に気付かない方がおかしいのだが、村人も村長も全然気付いていないのは拙すぎる。
「大佐、ルーク様って……」
「まだ分からないのですか? 赤毛碧眼は、キムラスカ王家に連なる者にしか現れない特徴です。隣国とは言え、それくらいの常識教わっているでしょうに。ルーク様、我が民が大変失礼なことを致しました」
 私が、エンゲーブを不敬罪で訴えたら確実に処罰対象になるだろう。それが分かっているからか、心の中はどうであれ謝罪を口にするジェイドに対し、空気読めない女ティア・グランツが吼えた。
「大佐が、謝ることじゃありません! ルーク、あなた傲慢よ! 関係の無い大佐に謝れって何様なの」
 ティアの暴論に、目が点になっている村人と村長。ジェイドは、面白そうにティアを眺めていた。彼は、馬鹿なティアに説明してやる気は皆無のようだ。
 私は、ハァと溜息を吐き分かりやすく丁寧に説明してやった。
「傲慢なのはお前だ。誰に向かってそんな口を聞いている。私は、キムラスカ・ランバルディア王国の王位継承権第三位のルーク・フォン・ファブレだ。マルクトの民が、証拠も無い上に泥棒扱いした。それだけで十分不敬だ。私が、彼らを訴えたら困るのはマルクトだ。だから、今この場で一番偉い人間が謝罪している。それを台無しにするな」
「なっ……」
 言い返そうとするが、反論できる要素が見当たらないのか悔しそうに唇を噛んでいる。
 漸くティアが黙り私は息を吐いた。
「カーティス大佐の言うとおり、彼は泥棒じゃありません。犯人は、彼らです」
 手のひらに収まるくらいの魔物が、エリクシルの手の中にあった。耳を鷲掴みにしており、見方を変えれば魔物虐待である。
「チーグルですか」
「ええ、丁度林檎を盗もうとしていたので捕まえました。まさか、ローレライ教団が聖獣と崇めている存在が、ただの害獣だったとは悲しい限りです」
 ミューッと苦しげに啼くチーグルから、私はいたたまれなさに目を逸らしたのだった。

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