小説 | ナノ

43.中間報告 [ 44/48 ]


『もしもし、クリムゾンだ。エリクシルか?』
「いえ、父様…私です」
 他人の目がある公道で、名前を告げるわけにはいかないので敢えて濁してみた。
『ルルか!? 無事なのか?』
「ええ、何とか無事です。メイドや騎士達の処分は、私が戻るまで保留にして頂けますか? 襲撃に使われたユリアの譜歌は、ヴァンですら膝をつくほどの効果がありました。体性のない人間なら尚更です」
 本当は処罰を下したくはない。しかし、世間の目もあり遅かれ早かれ私が連れ去られた日、勤務していた者達は何らかの処罰を下さねばならないだろう。
『そう云うと思って保留にしてある。今、どこに居るのだ?」
「エンゲーブに居ます」
『分かった。直ぐに迎えを寄こそう』
「ローテルロー橋が落とされたので陸路は使えませんよ。航路もしくは、アルビオールを借りて迎えに来て下さい」
『ローテルロー橋が落とされただって!? 一体何があったのだ??』
 クリムゾンの声が、上ずっている。凄く焦っているのが良く分かる。貿易の要である橋が落とされたのだから無理もない。
「最新鋭の陸上装甲艦でコソ泥を追い回した結果橋が落ちました」
『……そいつは、馬鹿なのか?』
「手に負えないくらい馬鹿なんでしょう」
 言葉を失うクリムゾンに、私は掛ける言葉が思い当たらなかった。何を言っても慰めにもならないし、現状が回復するわけでもないのだから。
「キムラスカからマルクトに私の保護とマルクト領地の上空をアルビオール飛行許可、後襲撃犯の捕縛を依頼して頂けますか?」
『分かった。至急手配しよう。本当は、私が迎えに行きたいところだが上層部の混乱を鎮めねばならん。ナタリア姫や陛下がお前の仕事を肩代わりするのは無理だ。シュザンヌが、何とか持たせているがそれもどこまで持つかは分からない。一刻も早く帰ってきてくれ』
 最後は、涙ながらの懇願にTV電話じゃなくて良かったと心底思ってしまったのは云わないでおく。
「分かっています。ジョゼットに私の携帯を持ってくるように伝えて頂けますか? 携帯があれば、指示を出すことは出来ますので」
『エリクシルのではダメなか?』
「音素固定振動数で認証できるようロックを掛けているので、エルが傍に居てくれないと利用できないのです」
『傍に居るのであろう? なら、一緒に帰ってくれば良いのではないか?』
 説明するのに面倒な問い掛けキター!! 時間は掛かるが、腹括って説明するか? ごり押しで和平を結ぼうとしているマルクトの心象が悪くなろうとがどうでも良いのだが、瘴気問題やパッセージリング調査に影響が出るのは避けたい。
「うーん……」
『何か問題でもあるのか?』
「エルを誘拐した自称和平の使者に保護を求めるのは危険かと思っただけです」
『和平の使者?』
「打診が来てませんか? 和平を結ぶ為に使者がそちらに向かってます。色々と脱線しまくっているみたいですが」
『いや、何も来ていないぞ。本当に和平の使者なのか?』
「……」
 エルクシルから聞いていたが、ジェイド・カーティスという男はとんでもなく大馬鹿者だと再確認した。
 クリムゾンが訝しむのも当然のことで、事前に相手側に連絡を入れ打診するものなのだが綺麗サッパリと必要な手順をすっ飛ばしている。
『ルル、お前の思うとおりにしなさい。ガイとロベリアが、既にお前の捜索に単身で乗り出している。それぞれ携帯を持っているから、ジョゼットと落ち合ったら連絡するように。それから、ヴァン・グランツは牢に繋いでいる。併せて襲撃犯の直属の上司であるモースも拘束中だ』
「分かりました。ダアトへグランツ兄妹の処刑許可とモースの降格処分、今回の誘拐劇で被った被害総額の請求及び寄付金の全額カットを抗議文に盛込んでおいて下さいね」
『勿論だとも』
 何とも心強い返事を聞き、私は電話を切りエリクシルに手渡した。
「意外と早く終わりましたね」
「長電話は、あまり好きではないんですよ。しかし、よりによってガイとロベリアが単身でマルクトに乗り込んでくることになるとは……」
 これからのことを考えただけで頭が痛くなる。
「ガイは、貴女命ですものね。ところで、ロベリアというのは誰ですか?」
 そこはかとなく黒い笑みを浮かべるエリクシルに、私は思わず後ずさる。
「ロニール雪山に封じられていたレプリカです。ちょっと難有りですが、腕っ節も譜術もトップクラスで私の下僕にしました」
 ロベリアと対面したエリクシルが、ちょっとどころの難有りじゃないだろうと怒号を上げる事となるのはもう少し先の話である。

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