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38.チキンな襲撃者 [ 39/48 ]


 安全装置を外し、狙いを定めて引き金を引く。パンッと派手な音が静寂な庭に響き渡る。
 女性でも持てるように小型軽量化された譜銃は、ディストのお手製である。TPが底なしと云われる私とて、消費すればそれなりに疲労はある。
 体力のない私をいかに外敵(シュザンヌ辺りは男共限定で)を容易く仕留められるか追求された特注品とも云えるだろう。
「待ちやがれ、髭っ!」
「うわぁあああっ!! 早まるなルーク、その銃を仕舞うんだ」
 狙いを定めて撃っているにも関わらず、持ち前の反射神経で間一髪交わされてしまってはムカつくの一言に尽きるだろう。
「ちこまかと……これで、くたばれっ!! インディグネイション

「ギヤァァァァァアッ!」
 堪忍袋の緒が切れた私は、譜銃そっちのけで大技をぶっ放した。邸を揺るがすような音と共に劈くような野太い悲鳴が響き渡る。
 静寂が戻ったかと思いきや聞き慣れない歌声に一瞬眩暈を感じたものの、気力で振り切り、プスンプスンッと焦げた臭いに顔を顰めながらヴァンに近付き譜銃を構えた時だった。
「チェックメイトだ」
 引き金を引こうとした瞬間ガサッと草を踏む音が聞こえ思わず身構える。
「ヴァンデスデルカ覚悟!」
 短剣を振りかざし突進する様に呆気に取られた私だったが、第三者のそれも不法侵入者にヴァンを殺されるわけにはいかない。
「チッ」
 襲撃犯の足元を狙い譜銃を発砲すると、彼女はキッと私を睨み付けたかと思うと突進してきた。
「邪魔しないで!!」
「ルル様!」
「うっ……いかん! ティア止めるんだ」
 振り上げられた短剣を譜銃で受け止めた瞬間だった。合わさった部分が光ったかと思うと毒電波の声が聞こえた。


――響け……。ローレライの意思よ、届け……。開くのだ!


 意識朦朧とした中で聞こえたガイの悲痛な声に、後で何言われるか分かったものじゃないなと冷や汗を掻いたのだった。


「……ク、ルーク起きなさい」
 一体どれくらい眠っていたのだろうか。身体を揺り動かされ目を覚ました。目に飛び込んできたのは、襲撃犯の顔だった。
「お前……」
「無事ね」
 安堵する女を睨んだ後、私は身体を起こし辺りを見渡した。丈の長い白い花がゆらゆらと揺れている。
 月光に当たってか、花弁は青白く見える。月の位置は、真上を指している。ともすれば、相当な時間をここで眠りこけていたという事になる。
 急ぎの仕事は片付けたとはいえ、早く戻らねば政務がストップしてしまう。
「一番近くの町へ向かって保護を頼むか……」
 ここは開けた場所だが、森の中を歩くとなると勝手は違ってくる。朝日が昇ってから動く方が得策か。そんなことを考えていたら、憮然とした顔で文句を云われた。
「貴方が邪魔をしなければ、こんな場所まで飛ばされなかったのよ。プラネットストームに巻き込まれたのかと思ったわ」
 一瞬何を言われたのか理解出来なかった。唖然とする私に対し、彼女は大きな溜息を吐き悲劇のヒロインを装い言葉を続けた。
「貴方と私の間で超振動が起きたようね。貴方が第七音譜術士だったなんて迂闊だったわ。だから王家によって匿われていたのね」
「全然ちげーし。つーか、自分の家なのにどうして匿われる必要があるんだよ」
 思わず漏れた本音に、襲撃犯は怒りに頬を染め睨んでくる。髭も大概だと思っていたが、この女もないわー。
「それより何故、私の家に侵入してまでグランツ主席長を襲った」
 ここが一番問題だ。ヴァンを狙うなら態々私の家で行う必要も無い。そうしなければならなかった理由を聞こうと問い掛けるも、答えるどころか人を馬鹿にする言動を取る襲撃犯。罪状を幾つ重ねれば気が済むのだろう。
「……貴方に話しても理解できないことだわ。それより、早くここを抜けましょう。私はティア。貴方を責任持って家まで送り届けます」
 送り届けるって、私の家を襲撃した時点で死刑確定である。そんなことも分かっていなさそうなティアに私は白い目で見てしまうのも仕方がないだろう。
「殺人未遂の誘拐犯の言葉を信じられるとでも思っているのか? 随分とお目出度い頭をしている。栄養が胸に行き過ぎた結果だからか」
「何ですって!」
「図星刺されたくらいでカッカするなよ。うるせーっつの。大体、軍人の癖に夜中に森の中を動き回る方が危険だってことくらい習うだろうが。行きたいなら勝手に一人で行ってくれ。私は、夜が明けるまでここにいる」
 私は、そういうと身を隠せそうな場所を探し歩いた。後ろでティアが罵詈雑言を高らかに吼えているが私はモンスターに言語は通じないと悟りを開き無視に徹したのだった。

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