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37.懲りない愚者 [ 38/48 ]


 ガイを伴い私は応接室へと向かった。7年前に比べ、髭もそうだが服装もダサくなって更にセンスの無さを際立たせた。
「父様、母様、ルークです。遅くなり申し訳ありません」
 不機嫌を隠そうともしないクリムゾンと氷の微笑を浮かべるシュザンヌに、ガイはうっと言葉を詰まらせ怯えている。普通の人間ならガイのような反応を見せるだろうに、厚顔無恥男ことヴァン・グランツは平然としていた。
「ルークか! 久しぶりだな、元気そうで何よりだ」
 満面の笑みを浮かべ近付いたかと思うと馴れ馴れしく肩を抱こうとしたヴァンに対し、後ろで控えていたガイが私達の間に割って入り腕を捻り上げた。
「な、何をされる!?」
「……」
「……ガイ」
 無言を貫きギリギリとヴァンの腕を粉砕せんとばかりに掴むガイに、説明してやれとばかりに名前を呼べば、彼は漸く口を開いた。
「王位継承権第三位のル…ーク様に対し、高々総長風情が許可無く呼び捨てし更にはお体に無断で触れるなど重罪ものだ。そんなことも知らないとは、ダアトも地に落ちたものだ。それともその肩書きは偽りなのか」
 主たるガイに毒を吐かれるとは思っても見なかったのか、ヴァンは唖然としている。アホ面を拝めたので、私の名前を呼び間違えそうになった件は不問にしてやろう。
「剣術の師をしていた癖が抜けなかったんだ。悪気は無い」
 そう言いながら私の方へ視線を向けるヴァンに、嘆息を一つ吐きガイに腕を放してやるように指示を下した。
「それで、どうして今日はここへ来られたのですか?」
 席に着いた私は、さっさと用件を言えとばかりに促せば用意していたのだろう。スラスラとこれまた頓珍漢なことを宣い始めた。
「導師イオンが行方不明でな、私は一度ダアトに戻らねばならん。久しぶりに稽古をつけてやろう」
「結構です。七年も剣を握っていない私に剣を握れと? 大体、導師が行方不明なら稽古している暇などないでしょう。嗚呼、それともキムラスカ領の捜索に協力が欲しいですか? それならば、私達ではなく陛下に謁見しご報告するのが筋と云うものでは」
 こんな奴が主席総長とはダアトを潰すのも容易いかもしれないと改めて再認識した。
「ルークの言うとおりだ。ダアトの一大事と騒ぐ割には、悠長にしているしな。案外嘘なのかもしれん」
「嘘を吐いてまでわたくしの可愛いルークに会いたかったのかしら。フフフ、身の程を知ることも大切だと気付かせるのも優しさですわよね」
 オホホホと人畜無害そうに笑うシュザンヌが一番怖い。思わず直視したガイは、ブルブルと仔鹿のように震えている。心の中で『ドンマイ!』とだけ言っておこう。
「ガイ、グランツ主席長がお帰りだ。お見送りして差上げろ」
「ちょっと待っ……ルーク!!」
 馬鹿の一つ覚えとは先人はよく云ったものである。先ほど、私を呼び捨てにしてガイに腕を捻り上げられ忠告までされたと言うのに同じ轍を進んで踏むとは『救いようの無い馬鹿』としか言いようが無い。
 一瞬にして、部屋を警護している白光騎士を含め殺気立つ。ガイに至っては、抜刀しようと剣に手をかけていた。
 この部屋に入る前の忠告が効いているのか、GOサインを出すまでは何とかその激情を押さえ込んでいる。
「グランツ総長、キムラスカ憲法・刑法第ニ編第一章七十三条はご存知か?」
「い、いやそれが何か?」
 突如刑法を持ち出した私に対し、ヴァンは訳が分からないとばかりに首を傾げている。
「王侯貴族に対する不敬罪、そして罪人は死刑と決まっています。本来ならこの場で切り捨てるところなのでしょうが、多少の延命が出来たことをその地位に感謝して下さいね。ダアトへ抗議文と貴方の身柄の引渡しを要求します。ヴァン・グランツを捉えよ」
 私の命令に、白光騎士達が一斉にヴァンに飛び掛る。ガイも嬉々としてそれに混じっているのは目の錯覚ではないようだ。
 ヴァンは、捕まることを良しとしなかったのか抵抗を見せ窓からの逃走を図った。
 破られ無残に散らばったガラスを見下ろしながら、私はニッコリと笑みを浮かべて言った。
「器物破損罪の追加。気が変わった。私が殺る。丁度、動く的が欲しかったんだ。新作の的にしてやろう。お前ら、絶対手を出すなよ」
 私は、窓枠に手をかけ飛び出したヴァンを追いかけるように外へ飛び出した。

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