小説 | ナノ

36.毒電波と招かざる来訪者 [ 37/48 ]


 朝から酷い頭痛と声が聞こえて、私の機嫌は底辺を彷徨っていた。
「ルル様、顔色が悪いですよ」
「いつもの偏頭痛だから大丈夫だ」
「あまり無理はなさらないで下さいね」
 眉を潜め心配そうに私を見るガイに、私は片手を振りながら大丈夫だと返した。
「真っ青な顔して大丈夫とは言いません。少し休んだ方が宜しいのでは?」
「休みたいのは山々だが、午前中に目を通しておかないといけない書類があるんだよ」
 積もりに積もった書類の山を見ながら思わず溜息が漏れる。
「その仕事は、元々ルル様がされるものではなかったはずです」
「ナタリアのだな」
 書類の出所をあっさりと白状すれば、ガイの顔がそれは怖ろしいことになった。美人が起こると迫力がある。
「だったら、ナタリア様にやらせれば良いでしょう。ルル様は、お休み下さい」
「ナタリアの処理能力じゃあ、午前中に終わらせるのは無理だから私のところに回ってきたんだ。それくらい分かるだろう」
「……急ぎの書類を片付けたら、絶対・必ず・確実に、ベッドで休むと約束して下さい」
「約束しなかったら?」
 ちょっとした好奇心で問い掛けたら、ガイはエリクシルと張れるくらい真っ黒な微笑を浮かべて言った。
「そうですね。強制的に寝かせて差上げます」
 ゾワリと身の危険を感じた私は、ガタリと椅子を揺らし後ずさる。それを見たガイは、何食わぬ顔で宣った。
「大人しく寝て下されば何もしませんよ。……何もね」
「ここ数年で、強かになったなお前」
「強かにならなければ、ルル様のお守はつとまりませんから」
 悔し紛れに零した嫌味も、あっさりと交わされてしまい余計に腹が立つ。
 ムゥッと臍を曲げていると、ガイは私の大好きなオレンジペコを差し出して言った。
「お体を心配しているのは本当です。あまり無理はされないで下さい」
 ガイは、時々不意打ちでドキッとすることをしてくれるのだから本当に心臓に悪い。
「……私の中にまだ、乙女的思考が残っていたとは」
「何か言いましたか?」
 流石天然タラシと言いそうになり、私は慌てて口を噤んだ。そんな私の様子を訝しむように視線を寄こしたものの、彼はそれ以上追及することなく書類の整理をしていた。
 頭痛と闘いながら何とか急ぎの書類だけ片した私は、ぐったりと椅子の背もたれに身を預けていたらコンコンとドアを叩く音が聞こえた。
「はい、どうぞ」
 ダレていた姿勢を正し入室を許可すると、ガイから咎めるような視線が突き刺さったが無視だ。
「失礼します」
 明らかに不機嫌ですと言わんばかりのオーラを放ちながら、無表情で入室するマリアに私は首を傾げた。
「えらく不機嫌だな、マリア。どうかしたのか?」
「ヴァン・グランツが、至急報告したいことがあると押し掛けてきまして追い返そうにも教団に関わることだと言張り門前で騒いだ為、一先ず応接間に通しました」
 どうりでピリピリしているわけだ。ヴァンの名前を聞いた瞬間、ガイが殺気だったのが分かる。私の後ろで殺気立つのは止めて欲しい。
 ヴァンが、ファブレに来た理由は予測はついている。大方、エリクシル失踪に託けて私に会って懐柔しようとでも考えているのだろう。
「分かった。着替えたら向かう。マリア、支度を手伝ってくれ」
「ルル様がお会いになる必要はありません」
 憮然としたマリアの態度に、私は肩を竦めて軽く嗜めた。
「そういう訳にはいかないだろう。私は、ルーク・フォン・ファブレでもあるのだから。教団関連なら聞いておくべきだろう。ガイも同席させるし何も起こりはしない」
 ヴァンは、高確率で不敬を働くだろう。それを盾に色々とダアトから搾り取るのも悪くは無い。
 マリアは、物凄ーく渋った後ガイ同伴を条件に納得した。
「……かしこまりました」
「ガイ、くれぐれも此処で髭に危害を加えるなよ」
 念のため釘を刺しておくと、ガイはチッと舌打ちしていた。殺したいのは山々だが、キムラスカで死なれては国交問題に発展しかねない。
 殺るなら、確実に害が及ばない方法でやって欲しいものだ。
「ガイは、さっさと部屋を出て頂戴」
 マリアは、ガイの背中をゲシッと蹴り飛ばし部屋から追い出すと私の服を嬉々として選び始めた。
 相変わらずフリルの沢山ついたドレスシャツを着ることを余儀なくされたのは言うまでもなかった。

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