小説 | ナノ

33.過去の清算と思わぬ産物 前編 [ 34/48 ]


 ディストからネビリム復活の話を聞かなくなったと思ったら、急に暇を欲しいと言い出され驚いた。
「随分と急ですね。どれくらい必要なんですか?」
「二月ほど」
 その回答を聞き、ビシッと固まった。この忙しい時に二月とは良い度胸だ。
 笑顔で固まる私にを見て、ディストはヒッと小さな悲鳴を上げた。
 私も鬼ではないので、事の次第によっては考慮しなくも無い。
「二ヶ月も休む理由はなんです?」
「過去を清算してきます」
 過去と聞いて思い浮かんだのは、ネビリムのことだ。だが、ネビリムは既に死んでいるのに二ヶ月も何をするのだと言うのか。
 疑問符を頭に浮かべた私に、ディストはポツリポツリと過去を話し始めた。
「私の幼馴染が、素養の無い第七音素を扱おうとしたのが始まりでした。力の暴走は、ネビリム先生の身体を焼きそして死に至らしめた。まだ研究段階だったフォミクリーに瀕死の彼女を掛けてしまったことで、精神バランスが崩壊した不完全なレプリカ……いえ、モンスターを私は生み出してしまったのです。ロニール雪山に封じられた殺戮人形と化したレプリカと決着を着けなければ先に進めないと思ったんですよ」
「……」
 妄執の影にあったのは、深い後悔だった。私は、溜息を一つ吐き出す。答えは決まっている。
「良いでしょう。ですが、このクソ忙しいなかで二ヶ月も休まれると支障が出ます。多く見積もって一週間です」
「一週間で行って帰って来るのは物理的に無理ですよ」
 確かに馬車を使ったとしてもバチカルからロニール雪山までどんなに急いでも一月以上は掛かる。二ヶ月で戻ってくるのも厳しいものはあるが、ディストが言い切ったのだから何かしら策はあるのだろう。
 私とて何もなく一週間と宣ったわけではない。
「アルビオールを使います。幸い初号機は完成していますので試し乗りには丁度良いでしょう」
 私は、携帯電話を取り出しめ組のリーダであるイエモンに電話を掛けアルビオールの貸出し要請をした。
『ファブレの嬢ちゃんじゃねーか。MCはまだ出来取らんぞ』
「それは構いません。アルビオールの貸して下さい」
 単刀直入に用件を切り出すと、イエモンは絶句した後に怒鳴りつけてきた。
『馬鹿言うんじゃねーよ!! ありゃ、まだ試運転もしてねーんだぞ』
「なら、キムラスカまで試運転で飛んできなさい。ファブレの敷地に滑走路を設けてありますのでそこに機体を下ろせば問題ないでしょう」
『しかしのぉ……』
 渋るイエモンに痺れを切らした私は、奥の手を使った。名付けて『秘儀・支援打ち切り』である。
「文句言うなら金出しませんよ」
『ぐっ……分かった。燃料費とパイロットの操縦手当てはうんと弾んで貰うからな』
「構いません。では、明後日迎えに来て下さい」
『了解した。本当に人使いの荒い嬢ちゃんだぜ』
 最後の最後まで文句を零していたが、取敢えず足の確保は出来たから良しとしよう。
「ルル、アルビオールとは何です?」
 一人会話に付いていけなかったディストが疑問を口にした。
「空を飛ぶ譜業です。明後日には、お目にかかれますのでそれまで楽しみにしてて下さい。それよりも、レプリカ・ネビリムですがネイス先生だけで退治出来ますか?」
 封印したと云うくらいなのだ。相当厄介な相手であることは間違いない。
「無理ですね。元々強かった上に、特定音素の欠落によって精神や能力が変質したせいで更に強くなっています。第一音素と第六音素を補うべく、譜術士を襲い次々と殺害する事件を起こし、マルクト軍一個中隊を単身で壊滅状態に追いやっています。マクガヴァン元帥によって、かつて彼女の被験者が研究していた惑星譜術を行使するための力場に封印出来たくらいですから」
 犬死しに行くつもりだっとのかとジト目で見てしまっても文句は言えないと思う。
 私の視線に気付いたディストは、たらりと冷や汗を垂らしていた。
「ここは、元同僚のよしみという事でアッシュ達にも協力して貰いましょう。シンクの変装も、そろそろ限界でしょうし。丁度良いでしょう」
 ニヤッと人の悪い笑みを浮かべた私に、ディストはサッと顔を背けた。
 相当悪い顔をしているのだろう。野郎が雪山で散っても、私の良心が揺さぶられることは無い。
「サポート・回復は私が引き受けます。過去を清算したら、今まで以上に働いて貰いますから覚悟しておいて下さいね」
 私は、明後日から一週間ほど家を空けるためシュザンヌに報告をするべく部屋を出たのだった。

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