小説 | ナノ

32.妄執から解放された時 [ 33/48 ]


 オリジナル・イオンことエリクシルに脅されキムラスカへ亡命したのが1年ほど前のこと。
 ディストは、与えられた部屋で瘴気中和装置を開発に勤しんでいた。
「失礼します。ネイス先生、マルクトから届いた瘴気に関するデータです」
 ノックと共に厚さ30cmはあろうかと思われる紙の束を抱えて入ってきたのは、雇い主であるレプリカ・ルークであるルルだった。
「アクゼリュスの坑道から取れる鉱物に、微量の瘴気が検出されるようになったみたいですね」
 ペラペラと紙の束を捲りながら世間話のように話しかけてくる彼女に、ディストは複雑な面持ちで見返した。
「ガイから聞いています。それより、未婚女性が男性の部屋に入るのは感心しませんよ」
と咎めると目を丸くしキョトンとした顔で首を傾げている。
「仕事の前に、女も男も関係ありません。情勢は待ってくれないんですから、時は金なり――ですよ」
 仕事をこの上なく優先する姿は、本当にかのオリジナルのレプリカかのかと疑ってしまう。
 生命は元々女であり、細胞分裂する際に男へと変化する。アッシュの情報を元に女性体のレプリカが作られたとしても不思議なことではない。
 しかし、だ。目の前の少女は、どう取り繕ってもアッシュとは似ても似つかぬ性格をしている。容姿は然り、中身はまるで某鬼畜眼鏡と張れるくらいのドSっぷりを発揮し、馬車馬のように働かせるのだ。
「……貴女が、本当にアッシュのレプリカとは思えませんよ」
 溜息混じりに零した本音に対し、彼女は物凄く呆れた顔をして言った。
「魂が違えば別の人間(そんざい)だと言うことにいい加減気付くべきだと思うのですが、馬鹿と天才は紙一重って正にこのことを指すんでしょうか」
「ネビリム先生は復活させます」
 思わずカッとなり怒鳴り返せば、感情(いろ)のない目でディストを射抜いた。
「刷り込みをしても、魂はネビリム先生のものじゃない。シンクたちが良い例です。それとも、魂さえも複製できると云いたいのですか? 馬鹿馬鹿しい」
「……っ! それでも私は…私は諦めるわけにはいかないのです」
 幼い頃、己の過ちで大切な人を救うことが出来なかった。蘇らせることが、己の贖罪なのだと言い聞かせレプリカ研究をずっと続けてきたのだ。
「……輪廻転生」
「え?」
 聞きなれない言葉に思わず聞き返すと、ルルは静かに語り始めた。
「死んで音素帯に還った魂が、この世に何度も生まれ変わってくることですよ。全ての生物は、生まれ育ちそして死にます。永遠なんて存在しない。……貴方の先生は、人より少し早かった。ただそれだけのことです」
 哲学的なことを言うものだと思ったが、生まれて六歳の―刷り込みがない―レプリカが考え付くようなことではない。
「貴女は……貴女は…何者なんですか」
 搾り出すように何者だと問い掛ければ、ルルは嫣然と笑みを浮かべた。
「ルーク・フォン・ファブレのレプリカですよ。尤も、魂はオールドラント産ではありませんがね」
 この時、漸くディストは人を蘇らせることが出来ないと認識することとなった。

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