小説 | ナノ

31.蛙の子は蛙 [ 32/48 ]


 オリジナル・ルークことアッシュは、一先ず処分保留としダアトへ帰した。
 ヴァンの動向を探るにしても、エリクシル達だけでは難しい部分があるからだ。
 その為、アッシュにスパイをさせ動向及びそれとなく妨害をするように頼んである。
 最悪、本物のルークだとばれても人類滅亡を企む悪の巣窟に単身で乗り込み命を掛けて情報を掴もうとしたと言張れる。
 インゴベルト六世の協力もあり、アッシュの亡命は『密命』ということになった。
 この決定にクリムゾンとシュザンヌは、不服だったようだが手駒は多いに越したことはないと言い包めたのは記憶に新しい。
 しかし、だ。
「……何故貴様がここに居る。ダアトへ戻れ」
「報告がてらお前の顔を見に来たに決まっているだろう」
 満面の笑みを浮かべてべったりと引っ付くアッシュに、私は容赦なく顔面に裏拳を叩き込んだ。
 相手は、腐っても特務師団長。あっさりと私の裏拳を受け止めると、手の甲に唇を寄せた。
 ゾワワッと怖気が全身に走り、産毛が逆立ちチキン肌になっている。
「また来たんですか。懲りませんね」
「面白いことあった?」
 レプリカ・イオンことイグドラシッルが、呆れた顔でアッシュの存在に溜息を吐いた。
 それと対照的に歓迎ムードのフローリアンは、ダアトのことを聞きたがっている。
「ルル様の仕事の邪魔はしないで下さいよ。不景気に逆戻りして給与が下がったらどうしてくれるんですか」
 そこは、私の身を案じるところではないのだろうか。憮然とした顔でイグドラシッルを見ていると、フローリアンがニコニコと笑いながら言った。
「イーグ、最近ルル様に似てきたね」
「私じゃなく、エリクシルでしょう」
「生みの親より育ての親と言いますよ?」
 私、子育てした覚えないんですが。思わずそう口に思想になったものの、そんなことを言ったら彼らが深く傷つくので止めた。
「アッシュ、報告」
「たまには、仕事抜きで会いたいんだがな」
「寝言は寝てから言え」
 頭のネジが二・三本吹っ飛んでからというもの、アッシュは口説きながら報告をする器用な真似をするようになった。される方は、堪ったものではないのだが。
「ディストに次いで、ルルを作ったスピノザが行方不明になったことで髭は相当焦っているようだ。後、導師が攫われた」
「……何て命知らずな」
 エリクシルを誘拐するなど、相手は余程馬鹿か自殺願望者だ。導師が誘拐されたとなれば、キムラスカにも届いているはずだがアッシュから聞くまで知らされていないことに私は首を傾げた。
「キムラスカにそんな話は届いてませんが、シンクと影武者をしているのですか?」
「今、マルクトと拗れたら色々と面倒臭い事になりかねないからシンクが導師の代わりをしているぞ。あいつが、導師してくれるお陰で仕事が捗って助かる」
 大方、エリクシルが溜め込んだ書類だけでなく、髭や樽が溜め込んだ書類もこなしているのだろう。苦労が目に浮かび、思わず涙が出そうになった。
「エルのことだから、打算があってワザと誘拐された可能性も否定できませんよ」
 マルクトに付いていくことに果たして利があるのか甚だ疑問なのだが、私は敢えて言及することはしなかった。
「まあ、シンクで誤魔化せたとしても長くは持たないだろうけどな。バレた時が楽しみだ」
「……」
 外交問題に発展するだろうと予測をつけているのに、探そうともしないのは単に面倒臭いからだけではないだろう。私が何か言うと薮蛇を突くことになりそうだと第六感がそう告げているので無言を貫いた。
「どころでアッシュ」
「何だ?」
「人の腰を撫で回すのは止めろ。セクハラで訴えるぞ」
「嫁の腰を抱いて何が悪い。寧ろ、このままベッドに連れ込みたいんだがな」
 子供が居る前で浪々ととんでも発言をかますアッシュに、フローリアンとイグドラシッルは慣れた様子で席を立った。
「僕らはお邪魔みたいなので失礼しますね」
「私を見捨てる気か!?」
「見捨てるだなんて、人身御供にするだけです。最近、アッシュからの通信が鬱陶しくて鬱陶しくて。たまには、ご褒美を上げないと拗ねるでしょう。これぞ飴と鞭という奴ですね 頑張って下さい。応援してます」
 キラキラしい笑顔と共にあっさりと私をアッシュに売ったイグドラシッルは、まさしく被験者そっくりだ。
「イーグたちも、ああ言っていることだし良かったな」
「良くねぇよ!」
 手際よく人の服を脱がそうとするアッシュに、エクスプロードをかまそうとした時だった。
「ルル様、只今戻りました」
 ノックと共に開かれたドアの向こうには、ガイが満面の笑みを立っていた。
 しかし、それも一瞬のことで般若の形相を浮かべアッシュに切りかかった。
「この変質者がぁあっ! ルル様に何をしている。その汚い手を放せっ」
「テメェに言われる筋合いはねぇ。こいつは、俺の嫁だ」
「それは、こっちの台詞だ! オカメインコ如きが、ルル様を嫁にしようなどと身の程を知れ」
「っんだと、このタイツ野郎が! 使用人風情が口出しすんじゃねぇ」
 ムサイ・ウザイ・キモイ×2剰の状態に、私の短い堪忍袋の緒はプッツリと切れた。
「二人とも死ね。ビッグバン」
 ドゴーンッと凄まじい破壊音が、今日も今日とてファブレ邸によく響いたのだった。

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