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22.滅亡回避の下準備 [ 23/48 ]


 刷り込みが施されたレプリカとあって、シンクもフローリアンも成長が早かった。
 三人の緑っ子が、ファブレ家を賑わし悪戯の餌食になるのは専らディストで誰も助けない。
 新技と称し、ディストにダアト式譜術をかけては面白がっていた。
 綺麗に整備された庭を破壊されるのは頂けないので、白光騎士の鍛錬場が彼らの稽古場だったりする。
 ファブレ家は、真昼間からドゴーンッとけたたましい爆音が響くのも日課にありつつあった。
「あらあら、元気の良いこと」
 元気が良いの一言で済ませるシュザンヌに、私は天を仰ぎ見た。今度は、何を破壊したのか。彼らが来てから修理費が馬鹿にならないのだ。
「元気が良いという次元の問題じゃないと思います」
「男の子は、あれくらいが丁度良いのよ」
「草食系よりも肉食系の方が好みですけど、破壊系は論外です。どうせ破壊するならダアトでしてくれれば良いものを……」
「ならダアトに潜入して貰いましょう。アッシュの動向も気になりますし、ダアトを潰す良い材料が手に入るかもしれませんね」
 オホホホッと高らかに笑う姿をクリムゾンが見たら、青ざめてプルプル震えていただろうに、ここに居ないことが実に惜しい。
「エルのレプリカも気になりますしね」
 ヴァンに教育されたら有能な人材も腐らせて終りである。アッシュが良い見本だ。
「潜入に関しては、エルに打診してみます。私も護身術でも覚えようかな……」
 ナタリア出奔事件で自分の身は自分で守れる程度には強くなっておかないと、あの馬鹿姫が同じことを仕出かしたとき私を護衛してくれる者達に負担を強いてしまう。
 シュザンヌは、私の意図が分かったのか凍て付いた瞳で提案した。
「護身術を覚えるのも悪くはありませんが、どうせなら譜術を極めては如何かしら? 彼女が来たときにでも成果を見せて差上げれば喜ぶでしょう」
 それは、ナタリアを的にしろと言う事か。一段と過激になって素敵です母様。
「そうと決まれば、ネイス先生に頼んでみます。譜術に関しても天才ですから」
「本当にエリクシル達が、ファブレに来てくれて良かったわ。そうそう、ルルが以前話してくれた移動通信機の試作品が完成したんですって?」
「ええ、持ち主の音素振動数を記録させたシムカードをソケットに装着させることで、悪用されないようセキュリティをかけています。ただ、己のTPを消耗させて通信するのでTPが低い人間には不向きなアイテムでしょう。内蔵されている電池の充電にも、レムパネルの設備がないと出来ませんし実用化に向けてまだまだ改良の余地はありますね」
 レムの光エネルギーを使い光起電力効果を応用して電気を発生させるレムパネルで第二のエネルギー開発を進めている。発電する量も限られているので課題は山盛りだ。
「本当に貴女という子は、面白い発想をする子ね」
 コロコロと笑うシュザンヌに、私は微苦笑を浮かべ無言を貫いた。私がやっていることは二番煎じですとは言えない。
「ガイが帰還してくれないと、携帯電話のテストが出来ないんですよね」
「また、どこかへお使いに行かせるの?」
「ええ、最近瘴気問題が浮上しているのでマルクトと協力して調査しようと思いまして」
 マルクトと聞いて、シュザンヌの顔が曇る。まあ、相手は敵国で長い歴史を振り返ってもあまり良い感情は持てないと云ったところだろうか。
 しかし、そんなことを言っている場合ではない。滅亡のカウントダウンはもう始まっており、パッセージリングをどうこうするにしても瘴気問題がそれを妨げている。
「今のマルクト皇帝は、賢君と誉れ高い。彼らも瘴気問題には頭を抱えているでしょう。キムラスカも何時瘴気問題に悩まされるか分かりません。譜術が進んでいるかの国と、譜業が進む我が国の知識や技術を合せれば打開策が見つかるやもしれません」
 まあ、既に打診はしており了承の返事は貰っている。惑星の存亡を掛けた一大プロジェクトに反対する者はいなかった。というか、させなかった。
「これから忙しくなりそうですね」
 予言の年まで残り2年。私は、大好きなオレンジペコを啜りながらこれからのことを思い溜息を吐いたのだった。

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