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20.亡命ですか、イオン様。 [ 21/48 ]


 導師イオンの顔を知っている者は少ないのが救いだったかもしれない。
 私は、彼らを応接室に通した。勿論、シュザンヌとクリムゾンも同席している。バッチリ手紙の内容を見てるし、気になるのだろう。
「本当は、返事を待つつもりだったのですが髭と樽……ゴホン、ヴァンとモースが手を組み私を亡き者にしようとしたので、トリトハイムに事情を話し逃がして貰ったのです」
「それは、穏やかな話ではありませんな。しかし、何故導師を亡き者にしようなどと?」
 イオンの言葉に眉を潜めるクリムゾンに、彼は悲しそうに笑みを浮かべて言った。
「それは、私の死が読まれているからです。モースは予言の成就を、ヴァンは物分りの良い私のレプリカが欲しい為。オリジナルである私は、彼らにとって脅威であり邪魔の何ものでもないのでしょう」
「なっ……」
 衝撃的な事実を突きつけられ言葉を失っているクリムゾンには悪いが、イオンがファブレを選んだのは私が居るからだ。
 嘗て、ルークの剣術の師であったヴァンですらファブレ家に立ち入ることが出来ない。
 過去、出禁になったヴァンが簡単に諦めなかったせいで知古のガイを利用して中へ入ろうとしたことも多々あった。
 その結果、被害にあったガイは勿論のこと私を筆頭にファブレ家とそれに連なる貴族や部下は蛇蝎の如くダアトを嫌い予言を蔑ろにしている。
 ローレライ教団員だけでなく、一般の預言者も相手にされない上に門前払いと来たもんだ。インゴベルト六世が、モースの内政干渉がうざいんだと愚痴を零していたから遠くない未来にローレライ教団の幹部もバチカル出禁になるのではないだろうか。
 もし、マルクトへ亡命したとしても即位したばかりの皇帝が収める国は安全とは言いがたい。負けず劣らず予言信奉者だった前皇帝が死亡した為、かの国の中枢を支える政務者の半数は予言信奉者と言えるだろう。
 亡命しても秘密裏にダアトへ戻されるか、殺されるかどちらかである。
 打算が見え隠れしているイオンに、私は米神を押さえながら目下気になることを口にした。
「事情は分かりました。その隣に居る貴方そっくりな彼らとその男は何です」
「私の兄弟です。と言っても、レプリカですけど。ヴァンが、勝手にレプリカ情報を抜き出し作ったんですよ。もう一人は、どこかへ幽閉されていて助け出すことが出来ませんでした。そっちの男は、譜業技術に長けた科学者でありレプリカ研究の第一人者です。名をサフィール・ワイヨン・ネイスです」
「あのネイス博士ですか?」
 天才科学者と称されるネイス博士が、目の前の男だとは信じがたい。肩まで伸ばした美しい銀髪に整った顔立ちを隠すように掛けられた眼鏡、服装も至ってシンプルだが品の良い物を着ている。
 科学者というより、どこかの金持ちの子息に見えなくもない。人は見かけによらないものである。
「私達を受け入れて頂ければ、彼も漏れなく付いてきます。ルル殿が、体調を崩した時なども彼が居れば安心だと思いませんか?」
 ニッコリと取引を持ちかけるイオンは、やっぱり元導師とあって一筋縄では行かない。
「受け入れるのは構わないのですが、キムラスカも貧乏なので見合った分の生活費を頂けますか?」
 私は、ニッコリともっと出せやコラと言語に滲ませてせびると予測していたのか、がさごそと道具袋から書物を取出した。
「創世記時代の譜業について書かれた書物です」
 思わずゴクリと喉がなる。創世記時代と言えば、今より譜業が発達したとされる時代だ。もしかしたら、私が欲しいと思っている譜業も載っているかもしれない。
「分かりました。私が、責任持ってあなた方を保護します」
「助かります」
 打算と欲望に塗れた私達の会話は、これだけに留まらずディストを交えて新アイテム開発の相談へと発展したのだった。

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