小説 | ナノ

19.一難去ってまた一難 [ 20/48 ]


 ナタリア出奔事件は、バチカルへ強制送還することで幕を閉じた。
 当初の目的は果たしたので、ガイをケセドニアに置き去りにして帰還したわけだが、やつれきったクリムゾンと怒り心頭のシュザンヌを見て逃亡したくなった私は正常だ。
 そんなことが出来るわけもなく、顔色を悪くしながら仕事をこなすクリムゾンの隣でバッサバッサと書類を捌きながらシュザンヌの愚痴を聞きつつ宥めることとなった。
 勿論、今の私の格好は彼女が職人に作らせた流行のドレスを着ている。
 シュザンヌのご機嫌取りの為ではあるが、いかせん仕事がしづらい。
「ルルが女の子で良かったわ。あんな駄目姫と結婚しなくてすんだのですもの。ナタリア姫が女王となったら、キムラスカは終りだわ。兄上には、王位を退いて貰わねば」
「確かに、このままだとキムラスカは衰退する一方だ。ナタリア姫の失脚を目論んでいる貴族は多い。今回の一件は、いい起爆剤になるだろう」
 うんうんとシュザンヌの言葉に理解を示すクリムゾンもなかなか過激な発言をしている。
 今、私達親子しかいないからと言ってハッチャケ過ぎです。当人達の前でペロッと言ってしまうような事が起きないか不安です。
「ルルが女王になればキムラスカの未来は明るいわ。ずっと一緒に居れて一石二鳥ですね」
「嫁に行ってしまうと中々会えないが、婿を迎えればずっと一緒に居られるか。それは名案だ! 早速婿候補を選別せねば」
 私を挟んで飛び交う会話に、私はアッシュの思い込みの激しさはこの二人から来たのではないかと核心した。
「嫌ですよ。私は、女王様なんて柄じゃありません。人を使うより、ガルドを増やす方法を考えている方が楽しいです」
 携帯電話があれば、今回の騒動も大事にはならなかっただろう。いや、それよりも農作業用の譜業を改良して、マルクトに輸出するのも悪くないかもしれない。
 不満そうな顔をする両親を余所に書類を捲っていたら、一通の手紙が出てきたので思わず手を止めた。
 消印は、丁度私がケセドニアへ出立した日だ。差出人の名前は記載されていなかったが、音符を象った紋章のシーリングワックスで封をされている。
 思い当たる人物が一人頭に浮かび、私はペーパーナイフで封を切った。無言で手紙を読み進める私の様子が、いち早くおかしいと気付いたシュザンヌは心配気に声を掛けた。
「ルル、どうしたのです。良からぬことが、手紙に書かれていたのですか?」
 良からぬことではなく、厄介事です。口で説明するのが億劫になり、私は手紙を差し出した。
 二人してそれを覗き込んでいると、慌しい足音が近付いてくるのを感じ、私は頭を抱えた。
「ルル様、三人の少年と男が面会を求めていますが如何致しましょう」
 押し掛け女房の如く、亡命した元導師とそのレプリカ。そして手土産と言わんばかりに連行されたディストがファブレの門を叩いた。ND2014ローレライデーカン・イフリート・1の日の出来事である。

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