小説 | ナノ

10.導師イオンと化かし合い [ 11/48 ]


 辛気臭い町という表現がピッタリなところだと言うのが、ダアトの第一印象。娯楽もないところでよく生きているけるなぁ、とは口には出さないでおく。
「ジュディ先生、それで例の少年は?」
「今日の夜、ホテルのラウンジで会う約束をしています」
 まあ、妥当な判断だろう。私達も離れたところで、様子を伺うことにしよう。
「夜まで時間があるので、町を見回りましょうか」
「でも、ルベリア様ダアトですから何もありませんよ?」
「ええ、分かってます」
 精々創世記に作られた建物があるとか、礼拝堂があるとかそのくらいで観光にもならないと暗にいうマリアに私は笑った。
「何か面白い発見があるかもしれないですし」
 この行動を後々、物凄く後悔することになるのは少し後のことである。


 名目上は巡礼なので、取敢えず面倒臭いが教会へ足を運んでみた。
 ダアトアレルギーな私には、きっつい環境です。説法を聞いていると段々と無表情になり沈黙する私をなにやら恐れている家庭教師以下略。本当に失礼です。
 身にもならない説法にうんざり顔の私は、やっと解放されたとばかりに伸びをしているとクスクスと笑う声が聞こえてきた。
 振り返ると、新緑を思わせる髪と瞳を持った美少女――じゃなかった美少年が居た。
 いきなり大元締めのお出ましに、度肝を抜かれた私は内心冷や汗が止まらなかった。
「済みません。あまりにも可愛らしかったので」
「は、はぁ……」
 何て答えたらいいのか分からず言葉を濁すも、相手は強かなタヌキだった。
「詠師の話は、つまらなかったですか?」
 痛いところをニコニコと平気で突いて来る少年に、私は顔を引きつらせる。流石、ダアトの最高指導者。人の機微に敏感でいらっしゃる。
「つまらないと言うよりは、聞く価値がなかったと申し上げるべきでしょうか」
 私の言葉に、ピクッと眉が上がったのを見逃さなかった。まさか、そんなことを言われるとは思ってもみなかったのだろう。
「価値がないとは?」
「一般的に語られるユリア・ジュエの偉業をを聞いたところで、何の利も生まれません。どうせなら、創世記の話やユリアが残した予言が聞きたかったですわ。今後の譜業の発展に一役かってくれるかもしれませんし。そう思いませんこと、導師イオン」
 扇を取り出し口元を覆い隠しながら相手の様子を伺うと、彼は年相応に声を立てて笑い始めた。
「あはははっはははは」
 呆気に取られる一同を余所に、彼は一頻り笑うと言った。
「ふふっ……久しぶりにお腹を抱えて笑った。噂に違わず不思議な方ですね。ルル殿」
 一発で正体見抜いた導師に周りが殺気立つ。得体の知れない笑みにゾワッと悪寒が走ったのは言うまでもないが、彼が気付くのも予測の範囲内ではある。
 手で彼らを制止し、表情を崩さない私にイオンは言った。
「それで、ダアトで何をするつもりですか?」
 底冷えするような低い声は、美少女顔に似合わないなぁと思いつつも、そんなことはおくびにも出さずニッコリと笑みを浮かべて言った。
「おたくの主席総長が、うちの子(ルーク)を誘拐したので返して貰いにきました」
 私は、この時イオンの余裕の笑顔が固まる瞬間を見た気がした。

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