小説 | ナノ

11.劣化人形らしいです、私 [ 12/48 ]


導師イオンに鎌掛けてみたら、あっさり引っ掛かってくれました。
立ち話は何ですからと、通されたのは彼の執務室。
流石に大人数で押し掛けるのは目立つので、ジョゼットのみ同行させ他はホテルで待機させることにした。
マリアが、物凄く恨めしい顔で私を見ていたが敢えて無視。
何かあったとき、己の命も含め守りきれなければ意味はない。
私、弱い。自他共に認める最弱令嬢だ。自慢にもならないが。
「どうぞお掛けになって下さい」
 イオンの言葉に、ジョゼットが椅子を引き私はそれに腰を下ろした。彼女は、勿論立ったままである。
「ありがとう、ジョゼット」
 彼女の名前を呼ぶと、目元を和らげ小さく「いえ」と返事を返した。数日一緒に行動をして思ったのだが、彼女はとても優秀だ。再興も夢ではないだろう。
「貴女は、本当にルーク・フォン・ファブレのレプリカですね」
 聞きなれない単語を聞き返すのは拙いと判断した私は、シュザンヌ直伝の微笑を浮かべ答えることを誤魔化した。
「あの髭めっ……」
 顔に似合わぬ悪態を吐くイオンに、私は観察するように彼を見た。どうやら心当たりがあるようだ。
「レプリカを作っていたことは知っていましたが。いや……何故貴女は女性なのですか。アッシュは男性だ。性が違う」
「ヴァン・グランツ曰く、マルクトが行った人体実験でそうなったと言ってましたね。お頭が弱い彼だから言えたんですね。尤も、あの男がルークの超振動を利用して何かを企んでいるのは存じてますの。大方、世界征服でもするつもりなのでしょうか。全く持って馬鹿ですわね」
 うふふと可愛らしく笑ってやれば、イオンは青白い顔で大きな溜息を吐いて項垂れている。
「……」
 言葉をなくしているイオンを見る限り、彼もヴァンの計画に一枚噛んでいたのだろう。
 ルークのレプリカを作られていたことは知らなかったようだったが。
「穴だらけの中ニ病真っ盛りなヴァン・グランツが考えることですもの」
「……本気で降りたい」
 ボソッと呟かれた切実な思いに同情はしないが、大いに利用は出来そうだと判断して話を持ちかけた。
「歴代の導師と遜色なく若くして導師の任に就かれた貴方が、あのような者と手を組んでいるのか解せないのですが」
 とっとと吐けと笑顔で威嚇すると、彼は予想外の事実を口にした。
「予言は、世界を繁栄させるものではない」
 オブラートに包んだ言い方だが、私はイオンの言葉の意味を正しく理解した。
「ユリアが残した予言は、破滅へと導かれるものだったということですね」
 7つ目の譜石が、見つからないのは彼女が故意に隠していたのだろうか。故人が何を思って隠したのかは分からないが、早くに公開されていれば、今のように予言を妄信する世界など存在しなかったのかもしれないのに。
 傍で控えていたジョゼットも動揺を隠せなかったのか息を呑んでいた。
「しかし、解せないのは何故ヴァン・グランツが超振動を欲しがったのか。予言を覆すなら、まずは人々の意識改革を行うべきでしょう」
 現にキムラスカ上層部は、予言離れが進んでいる。大切な政務を予言で決めたりしたら『無能』のレッテルを貼られるからだ。
「超振動でローレライを消し、レプリカだけの世界を造ると言ってましたね」
 何だ、その残念ぽんな計画は。ダメだ、爆笑してしまう。肩を震わせ笑いを堪えようとしたが無理だった。
「あはははっははっははははっは!! ふふふっ、あははっ」
 突如腹を抱えて笑う私に、イオンもジョゼットも目が点になっている。基本的に素を見せるのはファブレ邸内にいる時だけで、外面は完璧だった。
「やべっ、声を上げて笑ったら母様に怒られる。二人とも、内緒にしてて下さいね」
 ジョゼットは言わないだろうが、イオンは取敢えず分からないので一応釘刺しておく。ポカーンとしている顔は年相応でそんな顔も出来るのかと意外だった。

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