小説 | ナノ

8.ダアトにルークが居るらしい [ 9/48 ]


 シェリダンにガイをお使いに行かせていた矢先の事でした。一向に見つからなかった元祖ルークらしき人物を見かけたと家庭教師が青い顔をして報告してきたのだ。
 四年目にして漸く進展したのは喜んだのは束の間、ルークと思わしき少年はダアトで特務師団長に就いているという。
「よりによってダアトですか……。いえ、別にダアトへ巡礼することが悪いとは思ってませんから」
 萎縮しっぱなしの家庭教師に誤解を与えないようにやんわりと諭せば、彼はあからさまにホッとした顔をした。
 私は、ダアトアレルギーなだけで他人のダアトに対する思考はどうでも良いんです。
「はい。アッシュと名乗っておりましたが、燃えるような赤い髪に碧の瞳、何よりルル様にご兄弟かと思うほど似ていらっしゃいました」
 アッシュが本物のルークかどうかはさておき、見つかった場所がダアトとなると……げふんっ、げふん、灰色だったヴァンへ疑惑は黒に近い灰色と言えるだろう。
「アッシュという少年とコンタクトを取れますか?」
 取れますかと聞いておきながら、それ以外の答えを期待していない私に気付いた家庭教師は搾り出すような声で答えた。
「……取ってきます」
「ありがとう御座います」
 げっそりとした顔をしている家庭教師に、私は今度増毛薬を送ろうと心に決めた。生え際がそろそろヤバイお年なのに。心労でごっそり毛が抜けたら可哀想だ。
 取敢えず、ルークらしき人物が見つかったことを私はシュザンヌとクリムゾンに報告することにしたのだった。


 クリムゾンには城へ使いを出して『ルークらしき男児がダアトで見つかったよ』と伝えたら、すっ飛んで帰ってきました。早いですね父様、ついでに書類作成もそれくらい早いと言う事ないですと言えば、何故かしょぼーんと肩を落としていた。
「ルル、ダアトでルークが生活していると言うのは本当なのですか」
「ジュディ先生がダアト巡礼した時に見かけたそうですよ。何でも私と似ていて兄弟と思われたそうです」
「まあ!」
「その少年は、アッシュと名乗っているようです。一度、その少年と接触してみようと思っているのですが」
「「ダメです(だ)!!」」
 大声で即答されてしまった。ちょっと面拝みに行くだけなのに……。
「どこの馬の骨とも知れぬ相手の顔を見に行こうだなんて、わたくしの可愛いルルになにかあったら心配で心配で眠れません」
「そうだぞ。ルルが行かずとも、他の者に行かせればよい」
 深窓のご令嬢ですか私は、と喉元から飛び出そうになり根性でそれを飲み込んだ。
 一度もファブレ邸から出たことのない私にとっていい機会だと思ったのに、誘拐の一件から年々過保護になっている二人に、私は大きな溜息を吐いた。
「何も私一人で行くと言っているわけではありません。腕の立つ者を供に連れて行けば大丈夫でしょう」
「どこで誰がわたくしの可愛いルルを見初め嫁に欲しいと世迷言をほざくか分からないでしょう」
「そんな馬鹿な輩は、私の愛刀の錆にしてくれるわ」 
 シュザンヌとクリムゾンの暴走に、ちょっと引き気味な私を助けてくれるものは誰一人居なかった。
 傍で控えていたメイドも入口を守っている白光騎士もうんうんと深く頷いている。
 こりゃ説得するのに一苦労しそうだと思っていたが、一苦労どころ話ではなく、結局シュザンヌが選りすぐったメイドとクリムゾンが選抜した部下を連れて行く羽目になったのはもう少し後のことである。

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