小説 | ナノ

5.母様はドレスがお好き [ 6/48 ]


「母様……これは一体どういう事でしょうか」
 ヒラヒラなドレスを手に満面の笑みを浮かべるシュザンヌに、私は偏頭痛が襲った。
「貴女のために用意したのよ。最近、ドレスを着てくれなくなって母は寂しゅう御座います」
 頬に手をあてホロホロと涙を零す彼女に、私はまた始まったと顔を引きつらせる。
 一人で着替えが出来る程度には動けるようになった頃から、ドレスを着ないようにしていた。
 ヒラヒラの裾が足に絡まってこけるからとは言わない。断固言わないが、内外的にフェミニンな洋服であれば女性にも男性にも見て取れるからだ。
 しかし、シュザンヌと彼女付きのメイドはそれに納得しておらず、時折私に内緒でドレスを作っては着せようとするのだ。
 一枚作るのに一体どれだけのお金がつぎ込まれているのか確認するのが怖い。
「母様、私の抱える事情を考えればドレスは避けた方が良いかと思うのです」
「ですが、貴女は女の子ですのよ! お洒落の一つや二つしても罰は当たりませんわ」
 そういう問題じゃないのだが、これ以上言うと本格的に泣くので仕方がなくガイに目配せをした。
 彼は、一礼すると無言で部屋を出て行った。ラムダスに来客があっても誰も通さないように言いに行ったのだろう。
「……今日だけですからね」
「分かっているわ」
 その分かっているがいつまで続くのか心配です。私は、ハァと大きな溜息を吐き彼女が差し出したドレスを受け取り数時間に渡るファッションショーに付き合う事となった。


 シュザンヌ主催ファッションショーから解放された私は、着替えるのも億劫になりフラフラと自室への廊下を歩いていたら、城から戻ってきたクリムゾンと鉢合わせしてしまった。
 お互い固まるのはしょうがないと思う。赤の他人の私を受け入れられない彼は、非常に余所余所しく会う度に固まっている。会話も勿論生まれるはずもない。
「父様、お帰りなさい」
「あ、ああ……」
 私のドレス姿を凝視するクリムゾンに、首を傾げた。似合わないということはないと思う。
 顔は、シュザンヌに似ているのだ。まあ、クリムゾンに似ていても若い頃は美少年だったに違いないから女装しても似合っていただろう。
「父様、どうかされましたか?」
「いや、……その姿を見るとシュザンヌの若い頃を思い出す」
 顔を赤らめながらポツリと零したクリムゾンに私は噴出しそうになり、必死で口元を手で覆った。
 亭主関白気取って妻にゾッコンだったのか、なるほど。面白いネタが出来た。
「そうですか? 母様が最近ドレスを着ないからと作って下さったのですが、いつどこで誰かが見てルークがドレスを着ているなんて噂が立ったらファブレの名を傷つけかねません。母様に父様からもそれとなく控えるように仰って頂けませんか」
 寧ろ言えこの野郎と言語に滲ませながらお願いすると、彼は傷ついたような目で私を見た後小さく頷いた。
「……すまない」
「いえ、お気になさらず。父様も、ゆっくり休んで下さい。明日も公務があるのでしょう」
 私は言いたいことは言ったとクリムゾンに会釈、早々にその場を立ち去ったのだった。

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