小説 | ナノ

4.我侭姫の襲撃 [ 5/48 ]


 世間一般に私がルーク・フォン・ファブレであることは周知の事実ではあるが、キムラスカ上層部とファブレ家では女でありルークではないことを知っている。
 世間体を保つため『記憶喪失』として処理されて二年経過したが、ここ最近迷惑を顧みず押し掛けてくる少女がいた。ナタリア・L・K・ランバルディアだ。
 現王の娘だと言うが、瞳は辛うじてくすんだ緑ではあるが王家を象徴する赤髪の欠片もないせいか、出自を疑われている。
 当の本人は、気付いていないのか度々城を抜け出してはファブレ邸に押し掛ける始末だ。
 やけにドアの向こうが騒がしいと思ったら、バタンッと大きな音を立ててドアが開いた。 
「ルーク!!」
 甲高い声で名前を呼ばれた私は、眉を潜めた。何でナタリアがここに居るのだろう。
「ナタリア姫、ルーク様は只今勉強のお時間で御座います」
「まあ、もう勉強が出来るまでになったのですね」
 そういうと、ツカツカと私の机まで来たかと思うと盛大に顔を顰めた。
「何ですの。ルーク、以前の貴方ならこの程度はとうの昔に修得されたではありませんか。それより、こちらを勉強なさい」
 勝手に本棚から取り出した蔵書を渡し読めと迫る彼女に、私は大きな溜息を吐いた。
「ナタリア姫、公務はどうされたのですか」
「話を摩り替えないで下さいまし! いえ、それよりも他人行儀ですわよ。ナタリアと昔のように呼んで下さいまし」
 あんたと私は赤の他人なのだ。他人行儀で何が悪いとニッコリと笑みを浮かべていれば、私の意思を理解している家庭教師は傍観に徹していた。
「話を摩り替えてはおりません。お恥ずかしい話、今の私にこの本は難しすぎて理解しきれない。基礎が出来ていないものに、弓を持ち的を射ろと言っているのと同じことですよ、姫」
 全くその通りだと言わんばかり頷く家庭教師に、そう思うなら言ってやれよと視線を送るがあっさりと無視されてしまった。切ない……。
「そんなことありませんわ! 勉強をしていれば思い出すはずです!! わたくしとの約束も早く思い出して下さいまし」
 結局は、最後の言葉に繋がるのかと私は頭に手をやり大きな溜息を吐いた。彼女との約束なんて当事者じゃないんだから知るはずないのに、本当の事を言えたらどれだけ良いか。嗚呼、本当にイライラさせられる。
「ナタリア姫、勉強は強制されて行うものではありません。私は、私のペースで勉強を行いますのでご安心を。ナタリア姫も公務がありましょう。公務を放り出してまでここに来ているなんてことはありませんよね? 民が納める税金で私達は良い暮らしをさせて頂いているのですから、それに見合った仕事をしなければ……」
 クーデータが起きて首チョンパだけどな、とは言わないでおく。理解しているのかしていないのかさておき、私は入口に立っていた白光騎士に声を掛けた。
「アレックス、ナタリア姫のお帰りだ。城まで送って差上げろ」
「ハッ! ナタリア様、お城までお送り致します」
 有無を言わさぬ威圧感を醸しながらナタリアを連れて行く彼に、私は後でお礼を兼ねた差し入れをしようと心に決めた。
 新人騎士だったら、彼のようにスムーズにナタリアを邸の外に出すことは出来なかっただろう。
「ジュディ先生、少し席を外しても良いですか?」
「構いませんが、お手洗いですか?」
「まあ、そんなところです」
 家庭教師に声を掛け部屋を出た私は、通りかかりのメイドに声を掛け玄関に塩を撒くように指示した後、何食わぬ顔で部屋に戻ったのだった。

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