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きみの温かさを知る 中編 [ 9/23 ]


 流石、大きな神社だけあって参拝客の多さに圧倒される。
「凄い多いですね」
「そりゃね、苔姫は安産・夫婦円満の神様とされてるからね」
「彼女が流した涙が真珠に変わったからですか?」
「そういうこと。地方から、ご利益を求めて参拝にくる人が後を断たないんだよ」
 見た目は童女なのに、夫婦円満の神様とか言われてもピンとこない。
「僕らの場合は、本当の意味で新年の挨拶になるんだけどね」
 シノギを集めその見返りに土地神を守る。持ちつ持たれつの関係だからこそ、言えることなのだろう。
「私も苔姫様に新年のご挨拶をしませんといけませんね」
 純粋にそう思って言っただけなのに、リクオは顔を真っ赤に染めて口元を覆っている。
「リクオ様?」
「いや、うん……何でもないから」
 変なことを言ってしまっただろうか? と首を傾げるが、リクオが何でもないと誤魔化すのならそれ以上聞いたところで無駄だろう。
「じゃあ、行きましょうか」
 私とリクオは、人の流れに乗るように進みながら彼女が奉られている本堂へと足を進めた。
 手を合わせ挨拶するのはほんの僅かな時間だったのに、そこまで辿り着くのに結構な時間を要した。
 御札やお守りを販売している場所は結構な賑わいを見せていて、そこから少し離れた場所で私達は一息吐いた。
「少し疲れました」
「人混みに酔ったのかな? あ、甘酒配ってる。貰ってくるから、ここで待ってて」
 リクオは、フラッと甘酒を配っている方へ走っていった。気を使ってくれているのだろうが、人ごみに酔った人間に対し甘酒はないだろう。
 ボンヤリと彼の背中を見つめていたら、前を遮るものが出現して顔を上げると頭の悪そうな男が二人いた。
「……何か御用ですか?」
「可愛いねぇ〜。一人で何してるの?」
 猫なで声で喋る男に、私は今思いっきり嫌そうな顔をしていると思う。
「一人じゃありません。連れがいますので」
「連れってどこにも居ないじゃん。嘘はいけないな」
「俺らと一緒に遊ぼうぜ」
「嫌です」
 阿呆な輩に対し遠まわしに言ったところで話が通じないことは経験済みである。ハッキリとした拒絶で追い返そうとしたが、予想していた以上に相手はしつこかった。
「イヤだって〜。声まで可愛いねー」
「怖くないよ。俺ら紳士だしー」
 語尾を延ばすな気色悪い。心の中で悪態を吐きつつ、リクオが戻ってくるのを待っていた。
「ほら、行こうぜ。絶対楽しいしー」
 腕を捕まれ引っ張られる。振り払おうとしたら、強い力で握られ痛い。いい加減にしろと怒鳴りつけようとした時だった。
 バシャッと水を被ったような音がしたかと思うと、男二人から悲鳴が上がる。
「あっちぃーっ!!」
「うわっ!? なんだよ。ゲッ、甘酒じゃねーか?」
 頭から被ったのは甘酒でボタボタと滴っている。熱がるのは無理は無い。熱い甘酒を配っていたのを見ていたから、ご愁傷様としか言いようがない。
「藍、大丈夫?」
「はい」
 空になった紙コップを左手で持ち直し、右手は私の手を掴んでいる。安否を確認した後、無言で立ち去ろうとしたのだが、甘酒を引っ掛けられた男共は黙っていなかった。
「何しやがる糞ガキ!!」
「てめぇだろう。俺らに甘酒を掛けたのは」
 凄む相手にリクオは恐れる様子もなく、平然と宣った。
「僕がやったっていう証拠はどこにあるの?」
「そこに空の紙コップがあるじゃねーか」
「これは、僕が飲んだやつだよ。お正月早々に女の子ナンパしてて天罰でも当ったんじゃない? おにーさん方が、どこで何しようと勝手だけど僕の藍にチョッカイ出すのは止めてくれない。彼女に何かあったら、おにーさん方の身の保障は出来ないよ」
 ふんわりと笑う姿に般若が見える。彼の背には山盛りの妖が居た。
「〜〜〜〜〜っ!!!!」
 声にもならない悲鳴を上げ逃げていくナンパ二人を見送った後、リクオは山盛りになった妖怪達をすかさず手で払い落としている。
「リクオ様、人を脅すのに妖怪を使っちゃダメです」
「別に脅しただけだから良いでしょう。襲ったわけじゃないんだから」
 襲う気だったんですか。思わず突っ込みを入れそうになり、慌てて口を噤む。下手に突っ込んだら、薮蛇を出しかねない。
「たく、新年早々に何絡まれてんの」
「……済みません」
 理不尽だと思いつつも謝っておく。機嫌を損ねると後が面倒だ。
「後、これ。苔姫からのお年玉」
 渡されたのは、珊瑚と真珠のブレスレット。お年玉と言われて受取って良いものなのか。
「でも、高いんじゃ……」
「良いの。くれるって言うんだから貰っておきなよ。藍には必要になるものなんだから」
 必要になる理由がさっぱり分からないが、強く拒否する理由も無いので私はブレスレットをありがたく頂戴することにした。
「挨拶は終ったし、夜まで時間があるから屋台でも見て回る?」
「そうですね。少しだけなら」
 桜にお土産を買って帰りたいのもあり、私はリクオの誘いに乗ったのだった。

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