小説 | ナノ

きみの温かさを知る 前編 [ 8/23 ]

お正月企画小説第二弾!ミヒロ様リクエストで、昼若初詣デート&夜若vs氷麗なお話です。ご期待に沿ったお話になったかは微妙ですが、がんばって見ました。お納め下さいませ。
当作品は、本編と何ら関係ありません。


「初詣に行かない?」
 大晦日の夜から大宴会があって、私と桜は早々に切り上げさせて貰ったのだけど他の皆は夜遅くまで起きていたに違いない。
 氷麗がこの時間になっても起きないのが良い証拠である。
「構いませんよ」
「二人っきりでね」
「えっ……」
「嫌なの?」
 倒置法を使って騙まし討ちのような手法で事を進めるのは止めて欲しい。
「嫌ではありません。桜を海女のところに預けてくるので待ってて貰えますか?」
「分かってる。後、これに着替えてね」
 リクオが差し出したのは、椿と蝶が描かれた綺麗な赤い着物だ。結構な値段がしそうなそれに、私は眉を顰める。
「これ、どうしたんですか?」
「ん? 仕立てて貰ったんだ。お正月なんだし良いでしょう」
 この着物一枚でどれだけ掛かったのか怖くて聞けない。このお坊ちゃんは、時々平気で高い買い物をポーンッとする。その殆どが、私に買ったものだったりするので余計に困る。
「……ありがたく着させて頂きます」
「それと一緒に、これも付けてね」
 受取った着物の上から、ポンッと簪を置いてリクオは出て行った。簪を良く見ると、金で出来ている。しかも玉付き。おいおい、どんだけ金掛けてるんだ。
 ハァと溜息が思わず出てしまい、桜を起してしまった。彼女を海女のところに連れて行く予定だから良いのだけど。
「ママァ…」
 まだ眠いのか目がショボショボしている。そんな彼女の頭を軽く撫でてこれからの事を話した。
「ママは、祝賀会の準備とかで忙しいから海お姉ちゃんのところで良い子にしててね」
「ん、わかった」
 コクンと頷く桜に、私はチャンチャンコを着せて抱き上げる。
 海女の部屋に行き、既に起きていた彼女に桜を託した。
「お休み中ごめんね。桜の面倒をお願いしても良い?」
「あっちに謝る必要はないでありんす。桜は、あっちがしっかり面倒みるから楽しんでくるでありんす」
 どこに行くかもお見通しな海女に、私は乾いた笑みを浮かべる。
「桜、後でね」
「あい」
 私は、海女の部屋を後にし自室へと戻る。リクオから渡された着物に手早く着替え、髪も整える。
 私が居ないことに桜が気付いたら、それはそれで大変な事になるのでサッと行ってパッと戻ってきたい。
 良質の着物は、着心地がよくセンスも良い。和装用のバッグに必要最低限のものを入れ、姿見で身だしなみをチェックする。
「髪はどうしよう……」
 いつもは後に流している髪もアップにするのも悪くはないだろう。髪を一つにまとめ団子を作り、貰った簪をさしてみる。
 シャランと音を立てて揺れるのが、何とも可愛らしい。
「うわぁ……なんだか恥ずかしい」
 氷麗の方が似合いそうだと思ってハタッと気付く。私に渡すよりも氷麗に渡した方が良いんじゃなかろうか。
「リクオ様、誘う相手というか、渡す相手を間違えてます」
 リクオってもしかして恋愛下手なのか? タラシだし、セクハラ魔だし、キス魔だし。
「何で私を誘うかねぇ」
 私は、ハァと溜息を一つ吐きリクオが待っているであろう玄関へと足を進めた。


 リクオも着替えたのか、いつもの着流しではなく羽織紋付袴と正装をしている。普段は可愛いのに、着物を着こなせる格好良さはずるいと思う。
「凄く似合ってる」
「あ、ありがとう御座います」
 さりげなく簪の位置を直すリクオに、私は恥ずかしくなり顔を伏せる。
「じゃあ、行こうか」
 リクオの手が、私の手を掴み指を絡めてくる。手を繋ぐのは初めてじゃないけれど、恥ずかしいものは恥ずかしい。
「リクオ様、どこの神社へ行くんですか?」
「ん? ああ、苔姫のところに行こうかと思って。新年の挨拶もしておかないとね」
「浮世絵町一の稼ぎ頭ですものね」
 冗談交じりにからかうと、リクオもそれに乗ってくる。
「女性のための神社だからね。藍にも買ってあげるよ。安産のお守り」
「入りません! もう、怒りますよ」
「本気なんだけどね」
 クツクツと笑うリクオを軽く睨みつけながら、私はさっさと参拝して帰ろうと心に決めたのだった。

*prevhome#next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -