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夏の風物詩 中編 [ 6/11 ]


 子供達を水着に着替えさせていると、ぬらりひょんと鯉伴が揃って袋を渡してきた。
「……何ですか」
 聞きたくもないが嫌な予感がヒシヒシと伝わる紙袋を睨みつけながら問い掛けると、二人は物凄く良い笑顔で答えた。
「水着じゃ(だ)」
 案の定の答えに思わず溜息が漏れてしまう。ムッツリ助平も嫌だが、オープン助平も勘弁して欲しい。
「随分と面積が少ない水着ですね」
「藍に似合うと思って買って来たんじゃ」
 なるほど、黒のマイクロビキニはぬらりひょんのチョイスか。
「悪趣味だな親父。やっぱ俺の水着にゃ勝てないぜ」
 鯉伴が選んだ白の水着も負けず劣らず面積が少ない。こんな破廉恥な水着を着ろと言うのか。
「二人ともどんぐりの背比べって諺知ってます?」
 どっちもどっちだと言えば、彼らは褒められたと勘違いしたのかデレッとしている。ダメだこりゃ。
「で、どっち着るんだ?」
「勿論、ワシのじゃろ?」
 キラキラしい目で答えを待つ二人に、私は痛む頭を押さえながら水着をゴミ箱に捨てた。
「「ああーっ!」」
「着て欲しいならマトモな水着を買ってきなさい」
 ピシャリと言い捨て二人を追い出し、私も黒のTシャツと短パンに着替えた。
「とーしゃまたち、こりないね」
 呆れ顔の九重に、桜が痛烈な突込みを見せた。一体どこで覚えたんだろう、その言葉。
「しかたないよ。おっぱいせいじんだもん」
「かーたんのおっぱいフカフカしてしゅきー
「ボクもー」
 霞のおっぱい大好き宣言にリクオが便乗している。桜と九重は私の影響が強いのか『藍に似ている』と言われることが多いのだが、リクオと霞は『総大将や二代目に似て…』と言わしめることが多い。
「……じゃあ、中庭に行こうか」
「「「「あーい(はーい)」」」」
 私は、小さく嘆息し子供達の背中を押し中庭にデデーンッと鎮座しているビニールプールへと向かったのだった。


 縁側にタオルを人数分用意し、軽い準備運動の後に子供達に水をかける。いきなり水に入る危険を教えながらだ。
 プールに入っていいよの声に、キャーッと奇声を上げてプールに飛び込む姿を見て偶には良い買い物をした二人に労わねばと少しばかり思った。
「中庭に変なもんを置いてると思ったら、こういう使い方するもんなんですねぇ」
 通りかかった毛女郎が声を掛けてきて、涼しむ子供達を羨ましそうに見ている。
「鯉伴様とぬらりひょん様が、子供達の為に買ってきて下さったんですよ」
と返せば、彼女は疑問符を頭に浮かべ首を傾げた。
「その割には、部屋の隅でカビが生えそうな勢いで凹んでましたけど」
 水着を捨てたのが堪えたのだろう。そんなことで落ち込まなくてもと思うのは私だけだろうか。
「……水着を捨てちゃいましたから」
「嗚呼、成る程。大方、露出の激しいやつでしょう。総大将も二代目も、欲望に忠実ですからねぇ。藍様の趣味をまるっと無視した水着を渡して捨てられたと。馬鹿ですよねぇ」
「もうちょっと成長してくれたら良いんですけどね」
「無理無理。違う方向で成長してますけど、藍様が望む方向には絶対成長しないと思いますよ」
 辛辣かつ的確な予測をする毛女郎に私はヒクリと顔を引きつらせた。
「でも、その恰好で水浴びはオススメできませんよ。私、夏のバーゲンで新しい水着買ったんです。ちょっと小さかったので藍様に上げますよ」
 そう言いながら私の手を引っ張りズリズリと自室に引っ張っていく。子供達の面倒を小妖怪に任せている辺り抜け目が無い。
 部屋に連行された私は、サイズが小さいと言わしめた水着を見て絶句した。
「ちょっと……無理かな」
「大丈夫。イケてますって! その形が今流行りなんですから」
と無理矢理に近い形で面積の少ないモノキニ水着を着せられた。着せる時に胸や尻を触ってしきりに感心している姿にあの主にこの下僕ありと思わせるものがあった。似たもの主従に私は頭痛がした。

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