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夏の風物詩 前編 [ 5/11 ]


 暑い夏が到来しました。昔に比べて温暖化が進んでいるせいか、非常に暑いです。
 デレーッと畳の上に寝転がっている子供達を見て、流石にこの暑さだとダレても仕方がないかと苦笑を浮かべた。
 雪羅と氷麗は流石にこの猛暑は堪らんと避暑へ出かけてしまったし、河童は温い池から離れて鴆のところへと避難している。
 クーラーをつけて暑さを凌ぐという手もあるが、妖怪の巣窟に人が足を踏み入れたらどんな悪戯を仕掛けるか分かったものじゃないので却下するしかなかった。
「プールに行ければ涼も取れるのに……」
 霞は勾玉を身に付けさせれば耳と尻尾を隠せるので良いが、九重と桜は羽が隠せない。
 この暑さでパーカーを着させるのも可哀想だ。
「思いつめた顔してどうしたんだい?」
 いつの間に私の後ろにいたのか、腰に腕を回し人の頭に顎を乗せるのは止めて欲しい。
「鯉伴様、こうも暑いと涼を取りたくなりませんか。プールに行けたらとは思うのですが……」
「プール? でっかい水風呂みたいな奴か」
 ニュアンス的には間違ってはいないが、根本的な部分は間違っている。
「似てますけど違います。プールは、水着を着て泳ぐ場所ですよ」
「うちの大浴場に水を張れば良いんじゃないか?」
「……お風呂が沸かせないじゃないですか」
 前回、鯉伴が風呂に乱入して家族風呂を余儀なくされた時に子供達に水泳を教えていたことがある。風呂場は、泳ぐ場所ではないと叱ってもだ。
「ビニールプールでも良いからあると子供達を遊ばせることが出来るんですけどね」
「ふぅん」
 気のない返事をしたかと思うと彼はふらりと何処かへ行ってしまった。一体何だったのだろう?
「ま、いっか」
 浴衣の袖に襷をかけて寝転がっている子供達を起こし部屋の掃除に勤しんだのだった。


 次の日、鯉伴とぬらりひょんに呼ばれ子供達を連れて中庭に来て見るとそこには大きなビニールプールが鎮座していた。
「うわぁ!! しゅごーい」
「プールだ♪ ねぇ、とーさんはいっていい?」
「あ、ちゅめたいよ」
 プールに興味津々な子供達は、濡れるのもお構いなく手を突っ込んでいる。
「あの、これは一体?」
「プールって奴に行きたかったんじゃろう? 九重や霞はまだ上手く羽を隠せねぇ。だから、代わりと言っちゃなんだが家でも水遊びが楽しめるようにと思って用意したんじゃ」
「おーい、おめぇら水着に着替えてから入れ」
 鯉伴が、子供達をビニールプールから引っぺがすと値札がついたままの水着を手渡していた。
「鯉伴様、それはどこから盗ってきたんですか」
「藍、人聞きの悪いことを言うなよ。これは買ってきたんだ」
「本当に?」
 どうにも信じられず(彼らに財布を持つという概念がないせいか)胡乱気に鯉伴を見ると、一枚の領収書を見せられ納得した。
「総額が七万円って幾らなんでも高過ぎます」
「そうかい?」
 リクオの幼稚園の保育料二か月分に相当する。今も昔もお金に頓着しない彼らに、私は重たい溜息を漏らしたのだった。

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