小説 | ナノ

不器用な貴方 [ 4/11 ]

 
 九重の暴走に巻き込まれ時間旅行真っ只中な藍です。
 一度目は、400年前のぬらりひょんがいる世界。二度目は、鯉伴が成人を迎える少し前。そして、三度目はちびリクオが居る時代である。
 約2年ほど色んな時代を彷徨っていたのだが、その間に月ものは来なかった。
 まさか、いきなり何の前触れもなく生理が始まるとは思わなかったのだ。
 酷い倦怠感と頭痛に最初は風邪を引いたのだろうかと首を傾げていたのだが、段々下腹部に鈍痛にこれは生理の前兆だと直感した。
 そうなると私の行動は早かった。青白い顔で雪羅の部屋に顔を出すと、彼女は慌てて私に駆け寄って身体を支えてくれた。
「ちょっと! どうしたのよっ!! 顔が真っ白じゃない」
「月ものが来てしまったみたいで、お使いを頼みたいのですが良いですか?」
「良いも何もそんな状態で動くんじゃないわよっ! 部屋に戻るわよ」
 グイグイと私の手を掴み引きずっていく雪羅に、私はヨロヨロと何とかそれについて行く。
 部屋に入った途端、もうダメとばかりにヘタリ込む私に彼女は褥の用意を済ませる。
「単に着替えて寝てなさい。言っとくけど、顔色が戻るまで家事禁止!」
 ビシッと指を突きつけて宣言する雪羅に逆らうのは得策じゃないと判断した私は、大人しく単に着替えたのだった。
 雪羅に生理用ナプキンと鎮痛剤、サニータリーショーツを数枚買ってくるように頼み見送った私は、ハァと大きな溜息を吐いた。
 生理が来たという事は、子供が作れる身体に戻ったという事だ。今までのように、抱かれていたらそう遠くない未来に子供が出来てしまうだろう。
「……憂鬱だわ」
「何がじゃ?」
 ポツリと零した呟きに問い返す言葉に、私はビクッと身体を大きく揺らしてしまった。
「珍しいな。そんなに驚かなくとは。何か考え事か?」
 相変わらず鋭い妖だ。誤魔化すように微苦笑を浮かべたら、ぬらりひょんの表情が固い。
「ぬらりひょん様?」
「顔色が悪いな。どこか具合が悪いのか?」
「ええ、少し……病気とかそうのではありませんから安心して下さい」
「そんな顔色で言われても説得力皆無じゃぞ。鴆を呼んでくる」
 厳しい表情で立ち上がろうとするぬらりひょんの袂を掴みそれを止める。完全に誤解している彼にどう説明しようかと悩んだ。
「鴆様に来て頂くほどでもありません。女なら毎月ありうることですから」
「毎月……藍は何か持病を患っておるのか?」
 言葉を伝えて濁してみたが、全然伝わっていなかった。彼には、ストレートに話さないと理解してくれないようだ。
「月ものです。生理です。月経です。病気じゃありません。ただちょっと、いつもよりも重いだけです」
「は?………………す、すまん!!」
 言われた事が理解するまで数十秒要し、ぬらりひょんがそのことを理解できた瞬間、顔を真っ赤にしている。言わされた私よりも恥らわれてしまい、私は怒ることも恥らうことも出来ずに彼に気付かれないように溜息を吐くことしか出来なかった。
「そういう訳ですから一人にして貰えますか?」
 ぬらりひょんを構う余裕なんてないし、下手したら八つ当たりしてしまう可能性は大だ。
「ワシが看病してやろう」
 何ですか、それ。全然望んでいません。それなら、寧ろ子供達の面倒を見てくれた方が助かると言うものです。
 嫌オーラを出してみると彼は意に介さず、一人勝手に看病すると意気込んでいた。
「看病といえば氷枕じゃな! どれ、取りに行ってくるか」
「ちょっ……」
 嬉々として部屋を出て行ったぬらりひょんを止めようと手を伸ばすも届かず見送ってしまった。
「あの人……看病なんて出来たっけ?」
 私の不安は、モロ的中したのは数分後のことだった。


 べっちょりと濡れた手拭を頭にのせられ不快指数のバロメーターが早くも振り切れてます。
「後は、薬……これか? 藍、口開けろ」
 取り出されたのは、見覚えのある風邪薬。妖怪仕様に作ってあるため、私が飲むとどんな副作用が起こるか分かったもんじゃない。
「生理で風邪薬は必要ありませんから! 私は生理痛で苦しんでますけど、風邪引いたり熱を出したりしたわけじゃないんですよ」
 頭にのった手拭を桶に投げ入れぬらりひょんを叱りつけると、彼は傷ついたような目で私を見た後、しょぼんと肩を落とした。
 しまった言い過ぎた。慰めの言葉が浮かばずどうしようと思っていたら、ガラリと襖が開き買い物袋を手に目を丸くして立っている雪羅がいた。
「何やってんのよ、総大将」
 ビクゥッと肩を大きく揺らすぬらりひょんの挙動不審さに、全てを察した雪羅は彼に止めを刺した。
「何も出来ないくせに藍の看病しようっての? 邪魔よ! 大体、月もので苦しんでる女に対し風邪薬はないでしょう。身体を冷やしたらいけないってのに、あんた一体何してんのよ。藍の顔が濡れてるじゃない。役立たずなんだから、余計な仕事を増やさないでよね」
 グサグサと容赦ない言葉のナイフが、ぬらりひょんの心を抉っていく。俯き肩を震わせたかと思うと、部屋を飛び出していった。
「逃げたわね。フンッ、これに懲りて大人しくしてて欲しいもんだわ」
 雪羅の毒舌に、私は乾いた笑みを零すしかなかった。雪羅は、ぬらりひょんが仕出かした迷惑な看病の尻拭いをした後、しっかり休むのよと厳命し部屋を出て行った。
 私は、買い物袋から鎮痛剤を取り出し白湯でそれを飲み干した。
 鴆の薬ほど良薬ではないが、即効性は市販の薬の方が上のため三十分ほどで痛みが引いていた。
 頭痛の不快感も収まり、私は落ち着きを取り戻す。苛々していた時は分からなかったが、襖の向こうからこちらの様子をジーッと伺うぬらりひょんに気付いた。
「ぬらりひょん様、そこにいらっしゃるのでしょう。お入り下さいな」
 躊躇う気配に余程、雪羅に言われたことが堪えているのかオドオドする彼が面白い。
「大丈夫ですよ。薬も利いてますから」
「でも、まだ顔色は良くない」
「貧血もありますから」
 そわそわとするぬらりひょんに、私はコイコイと手招きする。褥の隣にちょこんと座る姿が何だか可愛らしいと言ったら、多分本人は落ち込むだろう。
「ぬらりひょん様、手を握っていただけますか?」
「こうか?」
 重ねるように手を握るぬらりひょんに、私は小さく笑みを浮かべる。
「女子は、身体を冷やすのは良くありません。月ものの時は特に。温かくする方が良いんです」
「なるほど」
 ぬらりひょんは、握っていた手を放したかと思うと背中に回り込み抱きしめてきた。
 お腹には、彼の手が回されている。背中に感じる彼の温もりが気持ち良くてうっとりと目を細めた。
「こうすれば、もっと温かいじゃろう」
 突拍子も無い行動は、彼なりの考えらしい。不器用なぬらりひょんに、私は小さく笑みを浮かべながら答える。
「はい、温かいです」
end


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