小説 | ナノ

戦いは始まったばかり [ 8/13 ]


 案の定、ボイコットが起こった。まあ、予想通りの展開と言えるだろう。
 四百年前も大所帯だったが、今は以前に比べ本家住まいの妖怪が増えている。
 流石に一人で料理するのは聊か厳しいものがある。冷蔵庫の中にあるものを吟味し、私は大量に納められていた野菜を取り出し調理に取りかかった。
 夕食時になり、腹を空かせた納豆小僧が台所に顔を出したのを良いことに、丁度良いと用事を頼む。
「あれ、瑞姫一人か? 飯当番はどうしたんだ?」
「嗚呼、今日のお夕飯は私一人で出来そうだったので別のことをお願いしたんです」
「でも、大変だろう。オレ手伝うよ」
 苦しい言い訳に納豆小僧は首を傾げたものの、自ら手伝いを買って出てくれた。
「じゃあ、大広間とお二階に円卓を出して貰えますか?」
「円卓か、久しぶりだよな〜。昔は、よく円卓囲んでおかずの熾烈な争いをしたぜ」
 彼の口ぶりから、今はそれぞれ個々に膳が配られていることがよく分かる。
「今日は、お鍋ですから。手の空いている方がいらっしゃったら、お野菜など運んで貰えると助かります」
「おう、任せとけ!」
 台所を出て行った納豆小僧を見送った私は、おつまみや食前酒などの用意に勤しんだのだった。


 納豆小僧が回りの妖怪に声を掛けてくれたお陰で、手隙の妖怪達が盛り付けられた皿や鍋を運び、いつもとは異なる夕食の風景が出来上がった。
 大広間に顔を出すと、上座に居たぬらりひょんが手招きしている。鯉伴の隣に若菜、そしてリクオの姿もある。桜達も一緒に円卓にいた。彼らの間に座ると、少しばかりムッとした鯉伴とぬらりひょんに私は思わず溜息が漏れそうになった。
「一人でこれだけの量をこなすとは流石じゃな」
「野菜を切って出汁を作っただけですよ」
「それでもこの量は一人じゃ難しいぜ。酒やつまみまでちゃんとある。流石、俺の嫁」
「何言ってんだ! ワシの嫁じゃ!!」
 鯉伴の俺の嫁発言に食って掛かるぬらりひょん。若菜の顔が強張っていることにいい加減気付いて欲しい。
「おなかすいたぁ……」
 リクオの一言に、私は二人の仲裁に入る。
「お馬鹿なこと言い争わないで下さい。ご飯がいつまで経っても食べられません」
「そうじゃったな。よし、合掌。頂きます」
 ぬらりひょんの合掌の音頭を取り、頂きますの声が上がる。こんな風に円卓を囲んで食べることが初めてな妖怪達は、少々戸惑い一拍遅れての頂きますと言っている。
 私は、鍋に野菜や魚を投入し蓋を閉めて煮立つのを待つ。その間に、子供達が食べれそうな玉子焼きや酢の物を取り分けてやる。
「おいしー♪ とーさん、おいしーよ!」
 玉子焼きが気に入ったのかパクパクと頬張るリクオに、私は笑みが零れる。
「だろう。瑞姫の玉子焼きは絶品なんだぜ」
「じゃあ、まいにちたべられる?」
「おう」
 勝手に話を進める鯉伴とリクオに、私は冷や汗を掻く。チラリと若菜を見ると唇を噛み締め俯いている。褒められるのは嬉しいが、今は若菜との関係を悪化させる起爆剤でしかない。
「えーっと、そろそろいい頃合だと思うので器を取って頂けますか?」
「頼む」
 ぬらりひょんから順番によそって行くが、若菜の順番になっても彼女は器を出そうとしない。
「若菜様?」
 私が声を掛けても、彼女は俯くだけでうんともすんとも言わない。
「若菜、いい加減にしろよ」
 鯉伴が、彼女の態度に痺れを切らし強い口調で叱ると若菜は突如席を立ち大広間を出て行ってしまった。
 追いかけようと私も席を立とうとしたが、ぬらりひょんに止められ動くことも出来ない。
 首無しが広間を出て行ったのが見え、取敢えず彼女を一人にしないで済んだことにホッとしたのだが、重苦しい空気が広間に広がり何とも言えない夕飯となったのだった。

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